白蛇さんの夫が浮気したら、こういうことになるという代表例を考えてみた。

「ただいま〜」
「おかえりなさい。 ......今日は帰りが遅かったのね?」
「ちょっと、部下たちに誘われて、飲み会にね」
「...そう」

俺は、28歳の社会人、とある会社の役員である。
えっ? スピード出世? ははは、ありがとう。

今日は部下たちに誘われての飲み会に行ってきた......と、言ったな。
半分は本当である。部下の女の子とバーで一杯やって、その後......だ。

もちろん、妻は気づいているだろう。白蛇だし。
だが、肝心の証拠が出せないで、責められないのである。

ほかの女の臭いがする...だけで浮気と疑うの?
職場で同じ空間にいれば、嫌でも臭いは付くんじゃないの?
と、論破してやったら、なにも言わなくなってしまった。

その時、俺は勝利を確信した。妻は俺に隷属することになった、と。
美人な嫁も手に入れ、社会的地位も磐石。
怖いものは無かった。
この時までは。


ある日、家に帰ると、家の中が真っ暗だった。

「おーい、我が妻よー、どこだー?」

そう言って、明かりがついていないリビングへ足を踏み入れた。
その時、紙を踏んだ感触と『ガサッ』と音が出た瞬間、体が金縛り状態になってしまった。
金縛りになってからコンマ数秒後、カチッと音が聞こえた。

「ここです」

明かりが付くと同時に聞こえてきたのは、絶対零度の妻の声。
そして、一生忘れられないであろう、恐ろしく冷たい目と顔をしていた。

妻はゆっくり歩み寄ってくると、数枚の写真を俺の目先に突きつけた。

「これは、なんでしょうね?」
「これはっ...!!!」

それは、同じ役員の美女と社内でイチャイチャしている姿、
その女とバーで飲んでいる自分の姿、
その女とホテルに入っていく自分の姿、
その女とホテルの中で情事に及んでいる自分の姿、を写したものだった。

「どこの誰がどうしてこれを!?」
「...あなたが浮気しているのを、知らないと黙認しているとでも思っていましたか? 最初に論破された時から、私は水面下で動いていたんですよ?」
「馬鹿な、君の魔力や気配は、俺の職場の周りには無かったぞ!!」
「ええ、私『の』魔力や気配はないでしょうよ」

にっこり笑って、妻は言った。
俺には、その笑みが、悪鬼羅刹よりも恐ろしいものに見えた。

「現状をお話したら、私の友達の魔物娘や、その夫や恋人たちが立ち上がってくれました。よーく写真を見ると、どこから撮ってるんだ、的な場所から取られているでしょう?」

最初の写真は、ドアップさと、確か鏡の前でいちゃついていたことから察するに『鏡の中から』、
二枚目は、おそらく『誰かに化ける』か、『全く知らない他人のふりをして』、
三枚目は、『飛行可能な魔物娘』が、
最後のは、『透明化して撮影した』ものだろう。

青ざめ、震えることもできない俺の頬をペロリと舐めあげてくる妻。
もう、俺のバッドエンドは避けられなかった。

「で、このまま怒っても、あなたは今後も繰り返すかもしれません...。なので、あらかじめ、友人たちに知恵を拝借してもらってます」
「なにを、するんだ?」

妻は、俺の足元の紙へ手を向けた。
そこには魔法陣か何かが書かれているのだろう。

「『スモール』ナウ」
「!!!!??」

俺は、身長5cmまで小型化されてしまった。

俺を優しく手で持ち上げ、テーブルの上に寝かせた。
そして、その上にプラスチック製のザルを置いて、その上からさらに皿を置いて『おもし』にした。
平たく言うと、檻である。

「一旦、金縛りを解いてあげます」

そう言って妻が指を振ると、金縛りは綺麗に解けた。
だが、状況が状況なので、逃げることは許されない。

「どうするつもりだ!?」
「...ある私の友人が言いました。『外に出すからこうなるのだ、いっそ、自分の中で飼ってしまえばいい』と」
「......まさか!?」
「ええ」

一息おいて、妻は言った。

「当面、あなたを私の胃の中で飼わせていただきます」

まさかのオチだった。
俺は半狂乱になって、ざるを持ち上げようとするも、身長5cmでは不可能であった。

妻はフンフン鼻歌を歌いながら、冷蔵庫から生卵を三つ取り出し、それをボウルに入れて混ぜている。
どうするのだろうか。

すると、混ぜ終わったようで、妻はザルと皿を持ち上げて、檻を撤去した。
チャンスを逃さんと、俺は逃げたが、あっけなく捕まった。
そして、服を剥かれ全裸にされ、解き終わった卵液の中に放り込まれた。
直径10cmくらいの小さいボウルだったために深さがあり、溺れそうであった。

「さぁ、次に出てくる時まで、ごきげんよう
#9829;」

妻はボウルを持ち上げ、口を開け、卵液ごと自分を飲み下し始めた。

「助けてくれェ!! 助けてくれェェェェェェェ
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