フィロソフィー・ビフォー・アウェイクン 〜幸太とレミィの話

 眠るという行為は合理的に見れば非常に効率が悪いものだ。何故我々は一日の3分の1を犠牲にしこんなことをするのだろうか?
 答えは簡単だ。疲弊した体を癒し、心身の健康を保つためである。
 そのために夜は暗い。何も見ることの出来ない暗闇ではありとあらゆる行為が無為となる。
 故に次の光が差すまで眠るのである。
 朝という新しい世界を待ち、意識を闇に預けるのだ。
 白み行く空、最も身近な始まり。
 目覚めとはすなわち、希望である。


―――
 部屋に差し込む柔らかな光で目を覚ます。なにやら大切なことを理解したような気がするが、まあ気のせいだろう。
 寝ぼけた頭で夢と現実をごっちゃにすることはよくあることだ。
 まだ少しだるい体を持ち上げて立ち上がり伸びをする。固まった筋肉がほぐれ、体に軽さが戻ってくる。そのまま洗面所で顔を洗えば眠気が完全に消えて、新しい一日への準備が整った。
「うみゅう……」
 洗面所から戻ってくると布団から漏れる声が聴こえた。つられて目を落とせば、布団はもそもそと緩慢にうごめいて、端の方が捲り上がった。
 そこから寝起きのぼやけた表情をした女性が顔を出す。
「……おはよう、こーた」
「ああ、おはようレミィ」
 彼女はレミィ。同棲して二年になる僕の恋人だ。
「これから朝ごはんにしようと思うんだけど」
「……んー、じゃあ作るねー」
「了解。じゃあ、支度して待ってるよ」
「はぁい」
 レミィがゆるゆると身体を起こすと、ふわふわとした体毛に包まれた体が布団から出てきた。
 ワーシープと呼ばれる魔物である彼女は、その柔らかそうな見た目通り穏やかでのんびり屋だ。
 仕事の準備をしながらキッチンから聞こえる音に耳を傾ける。僕はこの時間が何よりも好きだ。水道の水の音、食器の擦れる音、フライパンが立てる調理の音、一つ一つに一日が始まる音が凝縮されている。
 それを聞きながら仕事のことを考えていると、新しい一日を強く実感できるのだ。
「できたよー、こーたー?」
 そして何よりレミィの朝ごはんを食べることが出来る。
 今日のメニューはこんがり焼いたトーストにふわふわのオムレツ、彼女お手製のドレッシングがかかったサラダにコンソメスープ。
 恋人の、それも美味しい料理をご馳走になれるなら、何を差し置いても楽しみになるというものだろう。
「「いただきます」」
 向かい合って食卓に座り、朝ごはんを味わう。
 時々レミィに目を向けると満面の笑みで応えてくれる。それに釣られて笑いかけると、今度ははっとして視線を落としてもじもじと頬を染める。
 同棲して二年。その可愛らしさは褪せることなく、むしろ付き合い始めた頃よりも増している気さえする。
 やはり朝はいい。この身に溢れんばかりの幸せを改めて実感させてくれる。
「こーた、今日は早く帰ってこれる?」
「うん?いつも通りかな。どうしたの?」
「そろそろ伸びてきたし、毛を刈りたいんだけど……」
 ……口角が一瞬引き吊るのが自分でも分かる。別に毛を刈るのは問題じゃない。そろそろ暑くなってきたし、レミィにとってみれば自然なことだろう。……とはいえ。
「ええと、出来れば週末にして欲しいんだけど……」
「……ダメ?」
 ねだるような上目遣い。僕は彼女のこの顔に逆らえない。
 分かってやってるわけではないにせよ、いやむしろ分かってないからこそ、甘えてくるレミィに逆らうことが出来ない。
「やった〜」
 こうやって嬉しそうな彼女を見ることが出来るのも、逆らえない理由の一つだったりする。レミィが喜んでくれるなら言うことはないんだけど……
「うふふ〜」
 ……週末まで体力持つのかな。それだけが不安だ。


―――
 昼は淑女、夜は娼婦。多くの男たちの願望だ。
 ただ一人、自分だけを求める、そんな女性を男は望むのである。それは何故か?
 自らの血を残すためである。自らの子との血の繋がりを確かめたいからである。
 自分とその愛する人の面影を持つ子を為せれば、男としてこれに勝る幸福はないのだ。
 自己保存の欲求、伴侶への情愛。
 情欲とはすなわち、本能である。


―――
 ぼんやりとした意識のなか瞳にはレミィだけが写る。
 ふわふわと夢をみているような感覚に混じって、腰回りから快楽の波が寄せては返してを繰り返す。
 数日前に毛を刈り取られたレミィの身体を覆い隠すものは何も無く、白い肌が惜しげもなく晒されていた。
 不意にレミィが僕の顔に手を伸ばすと次第に意識がはっきりしてくる。
「くうっ!?」
 同時に腰からもたらされる快楽が膨れ上がり体が跳ねた。
「あんっ」
 それに反応するようにレミィが身体を震わせる。
「おはよう、幸太」
 唇を吊り上げて笑うレミィの表情は、いつもの穏やかなそれと違う乱暴なものだ。
「どっちの方が気持
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