スタンド・ウィズ・ユー 〜隼人と黒江の話

「……まったくもって締まらない」
 本日何度目かの愚痴をこぼす。
 腐れ縁に彼女が出来たことを祝福し、クールに去った三山隼人は、次の日学校を欠席した。
「惚れた女の幸せを願って身を引く隼人さんかっけーっす!」のつもりが「失恋で学校休みとか隼人さんかっこわりーっす」になってしまった……
 勘違いして欲しくないのは、休んだ理由は体調不良だということだ。起きてからさっきまで酷い頭痛と倦怠感で歩くのさえしんどかったんだから。
 ちなみに小一時間寝たらすっかり元気いっぱいになった。何を言ってるのか分からんと思うが俺にも分からん。
 まったくもって締まらない。身体は妙にすっきりして横になる気にもならないが、一応病欠なのだから家を出るのもまずい。
 なんとなく漫画を読んだり、ゲームをしたりするのも気が引ける。結局寝るしか選択肢がない。……とはいえ
「寝てられるか、畜生!」
 体調はすこぶる良好。いつもより体が軽く、頭はすっきり、気力も体力もばっちり。こんな状態でじっとしている方が無理だ。
 こうなったら逆に考えるんだ。こんな時こそ勉強が出来ると。
 そうだ。本来ならこの時間は机に向かってるはずじゃないか。鞄から教科書を取り出そうとして……
「……ない」
 そうだよね、教科書は学校に置いていくものだよね。
「……本当に締まらない」
 この無駄なエネルギー、一体どうすればいいのやら、正直なところ持て余す。
「ん?」
 ……と、胃袋が動き空腹を訴える。そういえば、今朝は何も食べてない。
 調子が悪かった朝は食欲なんてなかったが、調子がいいだけで空腹を押さえられるほど、体は単純なものじゃないらしい。
 他に出来ることもないし、とりあえずの時間潰しも兼ねてブランチとするか。
 部屋を出て、居間へと向かう。とりあえず冷蔵庫に何かしらあるだろう。
 ……これで食べるものがなかったら、冗談抜きで締まらないことになりそうだが。


――ー
「どう隼人、なかなかいい出来だと思うんだけど」
 居間に行くとすでに食事は用意されていた。曰くそろそろ来る頃だと思ったからだそうだ。準備がよろしいこって。
「うん。美味いよ母さん。ところで、なんで父さんがいるんだ?」
「いやあ。今朝急に体調悪くなってな。はっはっはっ」
 何故か同じ理由で会社を休んだらしい父親も食卓を囲んで一家団欒のブランチ。
「ハヤト様こちらもどうぞ」
 隣には腕の代わりに黒い羽が生えた少女が、俺の皿に料理を取り分ける。
「ああ、ありがとう。……ところでさ」
「はい」
「誰?」
「アマツクロエちゃん。あなたのお嫁さん」
「はい?」
「申し遅れました。私、カラステングの天津黒江と申します。本日はハヤト様を婿に迎え入れるべくこちらに参りました」
「へえ……」
 よめかあ。ヨメね。ふうん。……よめって、……嫁?
「はああああっ!?」
「どうしたのよ隼人。びっくりするじゃない」
「聞いてないぞ、そんなこと!」
「ああ、父さんも母さんもさっき聞いたばかりだ」
 おい? どういうことだってばよ!?
「どういうことって、そういうことよ。クロエちゃんがあなたを婿にしたいって言ったからOKしたとこ」
「で、せっかくだしみんなで食事をしようってことになってな。そしたら丁度いいタイミングでお前が来たんだよ」
「待て待て待て! 俺の意思は何処に行った? ……ってなんでそんな不思議そうな顔をする!?」
「可愛いし良くできた娘さんじゃない。何が不服なの?」
「まったくだ。こんなに可愛いお嬢さんに『お義父様』なんて呼ばれた日にはもうぶべらっ!」
 母さんの右ストレートが父さんに炸裂。こちらはいつものことだし驚きはしないが。
「あんたも急にそんなことを言ったって。お互いのこと知らないのに……」
「ご心配なく」
 凛とした声でこちらの言葉を遮るクロエ。落ち着いた仕草で懐から手帳を取り出すと、おもむろに開く。
「三山隼人。三山美鈴と三山圭の一人息子で葉桜高校在学。部活には在籍しておらず、放課後はピザ料理店『エル・カミーノ』でアルバイトをしている。
性格は意地っ張りな点があるが、真っ直ぐで正直、誠実さを重視する傾向あり。趣味はサイクリング、特技は食器の配膳とメンテナンス」
 ……あらあら、よく御存じで。
「ハヤト様のことで私が知らないことはありません。伴侶のことをよく知ることが、よき嫁への第一歩なのです」
「得意気なとこ悪いが、それはルール的にアウトだと思う」
「カラステングのルールでは悠々セーフです」
 ……さいですか。
「そう言ったわけで、朝食を終えたら早速、私の両親にごあいさつに来て頂きたいのですが」
「……拒否権は?」
「申し訳ありませんが」
「大丈夫よ隼人。あなたも直ぐにクロエちゃんのことを好きになるわ」
「まったくだ。こんな娘に
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