「……リュウタ、……わたしもう、我慢出来ないの」
「待て待て待て待て、仕事中だろうが!」
「大丈夫、……一回だけだから」
「何の基準で大丈夫か分からない! 頼むから後にしてくれ。店長にどやされる」
「……ごめん、無理」
「無理じゃねえって……おま……(バカやめろ、眼を使うな!)」
「……リュウタ」
「(よせ、誰か、誰か助けてくれ!)」
「……バジル」
「あ、……テンチョー」
「(店長、助けてください!)」
「……一時間休憩をやる。それまでに終わらせろ」
「……はいっ!」
「(え、ちょっ……そんな!)」
「リュウタ、……もらうね」
「(アッー)」
―――
現代ジパング。この国に唐突に魔物娘が現れて十数年。
表向きは平和に、裏ではなんだかんだありながらもやっぱり平和に、人々は日々を過ごしていた。
……とは言っても、初めの数年はてんやわんやだったが。
まずは魔物娘との婚姻の問題。
情熱的で一途な彼女達と恋に落ちる男性が現れるのは、すぐのことだった。
となれば、婚姻届の戸籍はどうするのか、種族による差違は、労働環境や扶養にまで問題は飛び火し、政府は大慌ての毎日であった。
毎月のように魔物娘についての法律、条例が制定され、瞬く間に魔物娘達は市民権を得た。
一部からは不満の声もあったが、きちんと人間同士の交際、婚姻もあり、魔物娘達の勤勉で争いを好まない傾向も手伝って、世間は彼女らを支持した。
そうして、ようやく諸々のルールがまとまり始めた頃に、彼女らの世界への出入口が出現。
バフォメットと呼ばれる魔物がそれを開いたのが葉桜市。昨今魔物娘の故郷と呼ばれている街だ。
もともとベットタウンとして存在していたこの街は、南を海に、他の三方を山に囲まれた緑の多い街で、そこそこの規模で発展していた。
魔物娘の故郷への入り口が出来てからは、魔物娘が次々と移住し、ジパング一魔物娘が集まる都市となった。
様々な法律と条例に守られ、人間も魔物娘も平等に暮らせる街として、全国から一目置かれている街でもある。
「気は済んだか? なら早いとこ片付けて、仕事に戻れ」
「……無理です。まだあちこちバキバキ言ってるのに」
「なら怠勤で減給だな。人の店で散々いちゃつきおってからに」
「俺のせいじゃないのに……」
「都合の悪い部分は女に押し付ける訳か? ペナルティー。一時間減給」
「そんな……」
「これ以上バイト代下げられたくなかったらさっさと働け」
「……分かりました」
俺はそんな葉桜市に住む高校生、佐倉隆太。
この街のピザ屋『エル・カミーノ』でバイトをしている。
「全く、嫁さんを見習ったらどうだ? あのあと上機嫌で配達に行ったぞ」
「無茶言わないで下さい」
魔物娘達は順当に二世を産み落とし、今ではジパング人口のかなりのウェイトを占めている。
その二世達も乙女と呼ばれる年齢になり、それぞれのパートナーを見つけ始めた。
そして俺はそんな流れに乗せられてしまった一人である。名前はバジル。内気で大人しいコカトリスだ。
ひょんなことからこいつを追い抜いてしまったせいで、俺はこいつに性的に頂かれるハメになった。
その小さい身体のどこにそんな力があるのか、彼女はシフト時間目一杯配達を続けられる。
しかし、体力が性欲と反比例をするのか、それとも純粋に性欲を抑えられないのか、しばしば仕事中に発情する。
ちなみに、バジルは内気ゆえ、気を許した男以外にはあまり近寄らない、近寄れない。そして彼女が気を許した男は職場にいる。
……あとはまあ、分かってもらえると思う。
「戻りました」
「おう、おつかれ、そろそろアイドルタイムだし、待機しててくれ。隆太、お前は仕込みだ」
「はいっ、テンチョー!」
「分かりました」
――――
「全く、何でこんなやつにあんないい嫁さんが出来たのか」
「……まだ結婚してないですよ。だいたい先のことなんて分からんでしょうに」
「いいや、お前はあの娘に勝てそうもない。どうせ卒業したらすぐ籍入れられるさ」
「……受ける側ですか」
「受けさせる程の甲斐性もないだろう」
「店長、あんまりです」
「悔しかったらいい男になって出直すんだな」
このピザ屋「エル・カミーノ」の店長、武倉勉さんは、口は悪いがお人好しの頑固親父だ。
ちなみに名前の方は『つとむ』であって『べん』ではない。五千円札のあの女性とは関係無いことを付け加えておく。
指摘したら「お前は面白いかも知れないが、こちとらその話何百回と聞いてんだよ!」と殴られたことを更に付け加えておく。
とはいえ、俺はもちろんバジルにも良くしてくれる、気のいいおっちゃんだ。
客へのサービスも従業員の扱いも上手く、『エル・カミーノ』がなかなかに繁盛しているのは、ひとえに
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6 7]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録