◆1章

「本当に人形みたいなやつだな」
「本当だな、ミスもないし完全に機械仕掛けだよ」
「行き過ぎてて気持ち悪いけどな」

そんな同僚の陰口がふと、聞こえてきた。
毎度のことだ、今更彼は反応しない。慣れてしまったのだろう。
どうせ今更収まるものでもないし、咎めるつもりもないようだ。

彼の名は名はアレン、齢は20歳程。
ある城下街の縫製工場で働いている。

アレンがこういった陰口を叩かれるのには理由がある。

アレンは人との関わりをほとんど持とうとしないのだ。
しかも休憩時間など空いた時間があればただ何をするでもなく、呆けていることが多い。
そして休憩時間が終わるとまるで機械のように黙々と働き出す。 
そこまでならば通常ただの影の薄い人で終わるのだが、アレンの腕は無駄に優れていた。
常人よりもはるかに短時間で完璧な仕事をしてしまうのだ。
その上アレンは一から設計もできるし、実際に現工場製品の主設計を担っている。
十分独立して自分の店を構えられるレベルであったが、なぜか彼は縫製工場の一工員としてずっと働いているのである。
ただ才能を食いつぶしているだけの行為に、周囲は不思議がっていた。

しかもたとえ腕を称賛されようともアレンは笑顔一つ漏らさない、むしろ無感情に口だけのお礼を返す。
それがいけなかった。
最初うちは苦笑いで済んでいたのだが段々とアレンに近づく者さえ皆無になった。
しかも一部の嫉妬感を煽ってしまい、ついには陰口を叩かれるまでになってしまったのだ。



……アレンは幼少時より孤児院にいた、両親は事故で死んでしまったと聞かされていたが正確なところはわからない。
孤児院での生活は酷かった、虐待は当たり前でろくな寝床も食事も与えられぬままさも家畜同然といった様相で過ごした。
感情は持ってはいけない、機械のように言われたことを素直にやっていれば不必要に怒鳴られることもないことを学んだ。
夢や希望などは家畜には不要だ、ただ素直な人形のように振舞う。
いつしかアレンは心を閉ざすことに慣れすぎてしまっていた。
そんなある日、アレンは孤児院を逃亡する。
別に計画して逃亡したわけではなく、ついにアレンが壊れ、爆発しただけのことだった。

孤児院と同じ町にはいられない、だがあてがあるわけではない。
ただ走る。逃亡したことが発覚して捕まってしまえばどうなるかはわからない。
町を抜け、必死で道なりに走っていたのだが子供の足で次の他の街まで簡単に到着するわけもない。
そもそも道なりに進めば大きな街があると小耳に挟んだ程度で、距離も何も知らなかった。
10にも届かないアレンはついに動けなくなる。
周囲は暗くなってしまった。後は野犬の餌になるしか無いだろう。
アレンは道ばたでへたり込み泣き喚くしかできなくなった。

そこでたまたま納品へ向かっている途中の馬車に乗っていた工場長に拾われたのだ。
以降工場長に縫製のイロハを教わり工員として働いてかせてもらって、現在に至っている。

…しかし孤児院時代の虐待で受けた精神的傷は大きく、アレンは他人や物事に興味が持てなくなってしまっていた。

それでも1つだけ興味を持てるものがあった。工場長に教わった縫製だ。
いや、恩返しのつもりで必死に覚えていた縫製技術のみを覚えているうちに、
興味を持っていると勘違いしてしまっただけかもしれないが。
しかし他にできることもなかったアレンは、自分の時間をほとんどそれに費やした。
それに加え、アレンには仕立ての天性的な才能があったらしい。
今となっては一級の職人と比較しても遜色ないだろう。

独立して自分の工房を持つ話も工場長から提案されたが、
アレンには興味がなく、しかも恩返しとしてここで働いているという理由で辞退してしまっていた。



さて、そんな彼に転機は訪れるのだろうか……



※彼の働いている縫製工場は衣服の量産が可能な設備・人材が揃っている。
その為王家、民間を問わず大量の注文が入る程だ。




◆1章

今日も僕は"人形"のような一日を送っている。

縫製工場に出勤し、設計書通りに型紙を切り生地を裁縫し加工する。
時間が空けば設計書も作る。

そういう仕事をやっている、それだけの事だ。

「ふう…」
今日のノルマをほぼ達成し、休憩を取る為に備え付けられてある休憩用の長イスに座る。

「おっ、人形様が座ってるぜ」
「心のなかで仕事の遅い奴らだって見下してるんだろうな〜あの方は」
「おい聞こえるぞ」
「いいんだよ、聞こえても無反応だろどうせ」

…作業で集中している時には聞こえないが、こう休んでいるとたまに陰口が聞こえてくる。

僕だって人間だ、こういう陰口を聞いて気分が良くなるわけがない。
確かに他人との関わりを断ってきたのは僕だ、だからと言って陰口を叩かれる筋
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