私ことリビングドールのリーナは、私を拾ってくれた少年の時田 竜生と二人で暮らしている。
今は二人で一緒のベッドに横になっている、時間は8時半……寝るにはまだ少し早い時間だ。
竜生と同じ天井を見つめながら、私は今日も竜生に話し続ける。
「ねぇ竜正、捨てられた私を引き取ってくれた事は本当に感謝してるわ。これは本当よ」
彼には生まれつき魔術の才(本人は霊感と呼んでいた)があるらしく、道端に落ちていた私に何かを感じて引き取ったそうだ。
淫魔の館に居たはずの私が突然遠い遠い竜生の居る場所で目を覚ました理由は今でも分からない。
ただ、竜生が私を拾ってくれなければ、今でも私は道端に転がっているかカラスにでも啄ばまれていただろう。
竜生にはいくら感謝してもし足りないくらいだ。
私の感謝に、彼は「どういたしまして」と小さく言った。
「私は貴方に報いようと思って沢山勉強したわ。 毎日お掃除してるのも貴方の為なの。これも本当」
だから、私は竜生の為に彼のお手伝いをしている。
今はまだお掃除くらいしかできないけれど、これから料理や洗濯もこなせる様に勉強中。
竜生がくれたノートは、料理のレシピや洗剤の量などを手当たり次第に書いている内に三冊目になった。
私の頑張りを伝えると、彼は「いつもお疲れ様」と労ってくれた。
「私を拾ってくれたのも貴方、温かいご飯をくれたのも貴方、掃除機の使い方を教えてくれたのも貴方……私の生活には貴方しか居ない。これも本当でしょ?」
竜生はここで押し黙る。
孤独で寂しくて、温もりが欲しくて。
そうやって道端で動かない顔で泣いていた私を拾ってくれた貴方。
それから私の世界はこの家の中だけだし、私の心にも貴方しか居ない。
私に捨てられる前の記憶は無く、私の知る人は竜生ただ一人だけ。
不満なんてない、だってそれだけ貴方を長く感じられるのだから。
なのに……なのに、なんで!
「それと同じように、私が貴方を好きだって事も本当! 本当に本当なの!」
私は感情が堪えきれずに、思わず叫び声を上げてしまった。
でも、竜生は私の激情した金切り声を聞いても、沈黙したままだ。
私がいくら想いを伝えても、彼はそれに返事をしてくれない。
いっその事断ってくれれば諦めがつくけれど、彼はイエスともノーとも言わない。
「竜生……どうして、どうして貴方が好きだって事を分かってくれないの……? どうして……!」
ついには涙が溢れて、声も上ずりながらになってしまう。
どうして、私の想いを否定するの?
私は貴方の事が好き、それだけなのに!
私の制御できない感情が止め処なく瞳から滴り落ちて、嗚咽が言葉を遮る。
そのまましばらく泣き続けて……やっと私が落ち着いてから竜生はゆっくりと口を開いた。
「ごめん、だけど……霊感のある俺にとって、どうしても動く人形は怨念を糧にして人を呪うような怖ろしいモノに見えてしまうんだ」
ぽつり、ぽつりと少しずつ彼の口から言葉が零れる。
以前聞いたのだが、竜生の家族である時田家はアクリョウ……悪霊と書くらしい……というゴーストの一種を家に呼び寄せてしまったらしい。
悪霊はゴーストとは違い人間を妬み、怨み、呪い、殺す……悪霊によって竜生の家族は立て続けに命を落とした。
彼が魔術の才を自覚したのはこの時で、悪霊の存在に気づいた彼が専門家に退治して貰った時には全てが手遅れだったという。
そして……最後に残ったのは望みもしない霊感と一人ぼっちの家だった。
「リーナは悪くない。ただ、怖いんだ……君じゃなくて、動く人形というものが。 リーナがいい子なのは知ってるけど、今にも誰かに呪われるんじゃないかって気が気じゃない」
悪霊に愛する人を奪われた、そんな彼からしたら私は元々招かれざる者だったのかもしれない。
竜生は私への謝罪と自分の恐怖を何度も何度も何度もなんどもなんども繰り返して、最後に。
「だから……」
竜生は締め括ることなく、口を閉じてしまった。
「……っ」
私は、竜生に何も言葉をかけることができなかった。
彼に対して怒った訳でも失望した訳でもない。
ただ、自分が彼を怯えさせているという事実が胸に深く突き刺さっていた。
私がそこに居るだけで彼に害を与えていたなんて。
私が存在するだけで、竜生を苦しめていたなんて!
「……リーナ、こんな時間に何処に行くんだ?」
……私はベッドから降りて、寝室のドアに手をかけた。
一度は治まった涙が、またぶり返そうとしている。
竜生は忌むべき私にこんなに良くしてくれているのに、みっともない姿は晒せない。
「今夜はリビングで寝るわ……ごめんなさいね、ついうっかり枕を濡らしちゃいそうなの。 ……おやすみなさい」
堪え切れなかった涙は、明かりの切れた照明が隠してくれた。
嗚咽を必死に抑え
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