「フジ君、耳かきってさ…エロくない?」
「…はぁ、そう?」
しとしとと雨の降る梅雨の日、白く四角いマンションのとある一室。
いつものように部屋でくつろいでいる彼女は急にそう切り出した。
フローリングの床を淡褐色の蛇の胴体がその持ち主の性格を表すかのごとくずっしりと占拠している。それは紛れもなく俺の相方、ヒカリの体の一部であった。
ラミア族、下半身が蛇であるヒカリと同居し始めてからしばらく経つ。
彼女とは同じ西京大学の同学部であり、大学1年からの付き合いになる。
ふたりとも今年で3年だから、もうすぐ2年だ。
しかし、普段やっていることといえばこうやってこんな風にだらだらと過ごしているのがお決まりだ。今日はバイトのシフトも入っていない。
俺は読み途中の漫画を閉じると寝転がった状態から胡坐にゆっくりと体制を変える。
ぶっちゃけ漫画がかなりいい展開なのでスルーしておきたいのだが、後のヒカリのネチネチした嫌がらせを思った瞬間、漫画を持つ俺の手は即決していた。
「あー、なんか興味なさそうな声、真面目な話なんだからちゃんと聞いてよー」
抗議の念をこめられた下半身の蛇の尻尾はビタンビタンと床を叩く。
正直言って彼女が真面目な話といって本当に真面目だったことなどほとんどないのだがあえていわないことにする。
人間と違い、ラミア族は湿気が多くなるとやたらと元気になる、そしてそれに比例するようにうっとおしさも上がるのである。
「わかったよ、カントリー○アムはまたあとでストック買ってくるからさ」
「それもかなり大事!よろしくっ!」
真面目な話のレベルェ…。正直ヒカリの真面目は大体こんなもんである。
仕方ないので俺から話の筋を戻す。
「…で、なに?耳かきがなんだって?」
「あ待って、やっぱマ○ムよりバームロー○がいいかも…あとマシュマロとかも」
「真面目な話しろや」
梅雨のジメジメした空気の中でこういうボケを被せられるとさらにうっとおしさが倍増する。汗がにじみ出てくるから勘弁してほしい。
「うふふ…実はなんだけどね…」
絶対わざとだなコイツ…
………
……
…
「―――ふぅん、なるほど」
「そ、だからフジ君も協力してーお願い☆」
ヒカリの尻尾の先がくるくると空中で円を描く。機嫌が割といい証拠だ。
話によれば、ヒカリの大学の友達のケンタウロスが最近彼氏とうまくいってないらしいということだった。
その子と彼氏は丁度付き合い始めて半年ほどらしく、実にカップルにありがちな問題にぶち当たってしまったというわけだ。
決定的に熱が冷めたわけではないらしいが、その子はそういった距離感にとても敏感でどうにかしないと不安で仕方ない、と大学で相談を受けたらしい。
そこで、ヒカリが解消策としていろんなイチャイチャの仕方を考案してサポートをすると名乗り出た、つまりはマンネリ対策ということだそうだ。
そういうことなら俺としても別に問題はないし、ヒカリではなく友達のためというなら協力してやってもいい。
だが、その前に一つ確認したいことがあった。
「…うん、大体事情は察した…ところでさ」
俺は思わず口を開く。
「なに?」
「なんか今の話だとヒカリが友達の悩みを聞く優しいキャラみたいじゃないか、おかしいだろ」
「なにその言いぐさっ!」
「いやだって想像できないし」
「外でいつもこのキャラなわけないでしょー、むしろ場をうまく転がすムードメイカーですよ私」
「えー?いやぁ…」
ヒカリがブーブーと口を尖らせている。
ひょっとしてそれはギャグでいっているのか?ヒカリの言葉にどうしても納得いかなかった。
あのヒカリが人助け?
「普段からアホなことばっか言ってるあのアホのヒカリが頼れる友人キャラだと…?炬燵でアホ芸したり変温なのにスキーしに行くアホなのに」
「あー尻尾全体が滑ったー」
俺の座る椅子の足に尻尾が巻き付く。ちょ、壊れるミシミシいってるからやめてお願いなんでもしますから。
「わかった!俺が悪かった、モノ壊すのは勘弁」
「それでいいのよ、じゃあ耳かきしよ」
「うん、そこがわからん、なんで耳かき?」
「えぇー…!?だからマンネリの対策だってばー」
ヒカリは呆れたような顔をこちらに向けてくる。いや、説明になってないんだがなぁ。
「耳かきねぇ…自分でやればいいと思うがなぁ」
思わず渋い顔をしてしまう。
昔幼いころに母親にされて以来他人にされたことがないのでどうもいまいちピンとこないのだ。
「いいから1回!1回だけされてみなよー絶対いいからこれ!シコ動でも人気なんだよー!ホントおすすめだから」
ヒカリは高らかな声と共に強引に足に尻尾を絡ませてくる。ヒカリは巻
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