赤い眼(下)

 ―――そして高校2年の夏。

私が、決して人間ではないと思い知らされる時が来た。


 丁度その頃から、私のパパの帰りが遅くなることが多くなっていたわ。

 半引きこもりの頃から聞いていたパパのダンピールの話も、その頃にはもう底を尽きてしまっていた。私ももう、パパにお話をせがむようなこともなくなっていた。

 高校生なんてパパから見たって微妙な年頃だったし、昔から人間の女子高生は、自分の父親のことなんて無視して当然みたいな風潮もあったからね。
 

 でも、私にとってパパが帰ってこないことは、寂しいことだったわ。
そこだけは、どうしても「普通の」女子高生にはなれなかった。

 だから私は、真夜中になっても玄関のドアが開くまで、居間でパパのことを待っていた。
 毎日毎日、くたくたになって帰ってくるパパを、ママと一緒にベッドまでお世話を焼いて送っていくのが、私のその頃の日課だった。
 
 その頃のパパは、新しい仕事を任されることになったといっていた。
 詳細は頑なに教えてくれなかった。けどとても過酷な内容らしくて、いつも目の下にクマを作っていたわ。
 
 その日も、私はベッドに倒れこんだパパの周りに落ちた、脱ぎっぱなしのYシャツやスーツを片づけていた。





―――ポトリ、と。

 スーツのポケットから紙切れが落ちた。
名刺サイズに綺麗に折り畳まれている、真白い紙だった。
 
 てっきり、怪しいお店のカードでも入っていると思って、その怪しげなその紙を拾ってみた。
 紙は数枚ほど重ねてあり、丁寧に八折りにされていた。
どうやら仕事か何かの資料みたいだった。

 
 私は、なんの気もなく、中を開いて詳細を読んでみた。


…それを読まなければ良かったと今でも思う。



『【機密】「赤眼」の今後の処遇と管理、および討伐に関して……』



 後半のタイトルは思い出せないけど、そう書かれていた。
特に私が気になったのは、そのタイトルの「赤眼」と「討伐」という部分。

 


赤眼。

管理。

ダンピール。


 接着剤で間違えてくっつけた時みたいに、単語同士が頭の中で離れなかった。

 胸の奥が、ギュウとつねられるような感覚。
まさかとは思いたかったけど、偶然の一言では片づけられなかった。

 嫌な予感をひしひしと、全身で感じ取った。
 そのまま紙をたたみ直して、見なかったことにして、ダンピールのことも、剛ちゃん達のことも忘れたままにしておけばよかったとも思った。
 

 でも、気づいたときには、二枚目以降に書かれていたことにも、私は目を通していたわ。
 
『「赤眼」についての通常時の管理、扶養の義務と権利は、各々の家庭の扶養者の下にある。それらを※※の許可なく放棄した場合は厳罰に処する』

『ただし、最終的に「赤眼」が錯乱状態に陥り、※※※だと判断した場合、※※が各々の家庭の判断如何に関わらず強制介入する』

『また「※※※」に関しての情報は、発見次第速やかに報告すること』



 内容は…昔のことだからね。
詳しくは思い出せないし、実際の文章とは多少違うと思うけど、内容はそんな感じだったわ。
 小難しい言いまわしだったけど、当時の私でも意味は理解できたわ。

 ―――「赤眼」の世話をしないと、その家庭は罰が与えられる。
 ―――そして「赤眼」が何か都合の悪いことをするようなら、処罰の対象になる。



 膝が震えていた。
私には、それがダンピールのことを指している気がしてならなかったの。


 もしかしたら、魔物は。

 ダンピールは、私という存在は。

とても危ない生き物であるのかもしれないと。

 記憶の中のパパの姿が、ふと浮かんだ。
 そもそもダンピールの症状が出るまでは、パパは大人しく座って晩酌をするイメージで、元々そんなに喋る方ではなかった。
 でも、あの小学校での体育の事件があってから、妙に積極的にパパの方から話すようになった。
 気のせいと思えば、それで済む話だったのだけれど、若気の至りなのか、一度疑い始めたら、もう止まらなかった。

 楽しい話をたくさん聞かせてくれた思い出の中のパパの顔は、とても優しかった。
あれが、すべて打算的なものであるとしたならば。




―――パパは罰せられないために、私に優しくしていたの? 



 私は愚かにも、そんな疑問を抱いてしまった。
 人間とのコミュニケーションを学んでおきながら、心の方は全くの子供のままだったわ。
そんなこと、塵1つでも絶対抱いてはいけなかったのにね。



 


 そして、その書類の最後にあった一枚。
それはS字の形をしたこの島の地図だった。

 山が二個、連なるような形状の所々に、赤いサインペンで○や△や×が書き込まれていたわ。

 そして、島の
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