さてと、じゃあ…どこから話そうかな?
なにせ、25年越しだからねぇ。
多分、思い出しながらの話になるわ。
まずはそう、当時は剛ちゃんと呼んでいたけど、継のお父さんと出会うまでかしらね。そこまでの経緯を話すわ。
―――私が、自分がダンピールだと知ったのが小学6年生の時だったと思うわ。
その日も、今日のような暑い夏だった。
暑さのせいか、朝から身体がだるくて、頭痛が酷かったわ。
その日の朝の時点では、まだ風邪かと思っていた。
だからつい、放っておけば良くなるでしょって一人で勝手に判断して、私はそのまま授業を受けていた。
でも、授業が進むにつれて段々悪化していって、午後の体育の授業の時に、とうとうそれは起きてしまった。
その日の体育の授業内容はソフトボールだった。
始まってすぐの準備運動で、バクバクと鳴る心臓の鼓動に合わせて、頭痛と耳鳴りが吐きそうなくらいに反響しはじめていた。
眩しい日差しを受けていると目の奥がチクチク痛くて、喉に熱が籠って酷く渇いていた。
当時の小学生のソフトボールは男女混合でね。
運動神経の良かった私は、女子で唯一、レフトとして試合に参加していたの。
試合が始まってしばらくした時だったかしら。
間抜けなことに、私はその頃になってようやく、普通の風邪じゃないことを自覚したわ。
あっという間に我慢の限界がやってきた。
膝がガクガク揺れて、冷汗が滝みたいに吹き出してその場に立っていられなくなったわ。
私の視界が、みるみるうちに霞んでいった。
思考がバラバラにほどけて、まとまらなくなっていったわ。
一番鮮明に思えているのは…「渇き」ね。
喉の渇きが酷くて酷くて、たまらなかった。
早く何とかして、口の中を水でいっぱいにしたい、と。
そう思っていた時だった。
パンッと。
破裂するような音が校庭に響いた。
それはボールが、ファーストのミットに突き刺さった音だった。
私が思わず一塁を見ると、クラスの男の子がファーストの子と一緒に倒れていた。
どうやら、塁に出た男の子が接触事故を起こしたみたいでね。
その男の子のことはもう、顔も名前もはっきりとは、覚えてないけれど。
思い切り塁に滑り込んだらしく、派手に擦りむいたその男の子の膝からは、赤い血が何本も、足首に向かって伸びていたわ。
――ドクン、と。
とたんに私の心臓が、脈打ち始めた。
その赤みがかった傷口を見つめていると、全く目が離せなくなっていたわ。
さっきの渇きとか吐き気とか頭痛とか、そういった色んな症状が一瞬にして悪化したわ。
それらが身体の内側で全部ぐちゃぐちゃと、ごった煮のスープみたいに混ぜ合わせてグルグル回っていた。
漫画みたいに自分の喉が本当にごくりって音を立てて、お昼を食べたばかりなのに、お腹の音がキュウと鳴いていたわ。
口を開けるたびに、粘ついた涎が湧き水みたいに溢れ出てきて、喋ることもままならなかったわ。
いつの間にか私の目には、傷口しか映らなくなっていた。
…視界の真ん中…丁度、その男の子の傷口の映る辺りから、じわじわと血の色が広がっていって…ドンドン目の前が真っ赤に染まっていった。
目の前が何もかも真っ赤になってしまった。
普通の人ならここで、パニックになってもおかしくはなかったはずなんだでしょうけどね。
でも、その時の私は何故か少しもおかしいと思わなかったわ。
全身から流れてくる身体の異常信号と、訳の分からない視界の色の変化をを分かっていながらね。
頭の中のスープから浮かんできたのは……
『この子の血が吸いたい』っていう、嫌に突き抜けた欲求だけだったわ。
みんなが見ている前で、私はその男の子に吸い寄せられていって。
まるで食人鬼みたいにフラフラ歩いていって、男の子の横に座り込み、その膝を掴んで…。
口を近づけた。
そう。
その時に初めて、私は人の血を飲んでしまった。
―――この瞬間が、「佐島扶美というダンピール」の生まれた時だった。
…数秒のどよめきの後、試合を観戦していたクラスの女子が悲鳴を上げているのが聞こえたわ。
でも、私は弁解するために口を開くことができなかった。
その男の子の血が美味しくてたまらなくて、傷口から口を離せなかったから。
その時の自分の行動の異常さはちゃんと分かっていたのに、何故か私は血を飲むことをやめられなかった。
…1〜2分ほどかしら。
夢中になって舐め続けてしばらくして、すぅっと頭の中がクリアになっていった。
さっきまでの身体中の異常も、嘘みたいに頭の奥に引っ込んでいった。
頭痛も目の
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