平和を求めて旅立つ黒羽。

何処かの世界。
過去。人間と魔物は争い合う運命で繋がれていた。
魔物は人間を喰らい、人間は自分達を守るために魔物と戦った。
そして現在。
今では魔物は女性しかおらず、人間に害を加えていた魔物たちとは全く異なるものとなった。
人間を愛し、人間と繋がる事を欲する彼女等を魔物娘と呼ぶ。
魔物娘はしばしば誤解される。
人を攫いそのまま夫にするなど日常茶飯事でも無い。けれども、頻繁にあることではある。
しかし。人間からしてみれば、状況証拠だけでは明らかに骨ごと丸呑みしてしまったような印象を受けるだろう。
そんな、人間と魔物娘の物語。

どん。どんどんどんどん。
「王子!ここに逃げ込んでも、逃げられませんぞ!観念しなされ!」
何やら壁を叩く音。
仕方が無いとはいえ、自分の国の衛兵に追われる事になってしまうとは。後悔、はしていないが、それでも虚しさを多少感じる。

とある反魔物国家の王国。
今自分がいる場所は、王の謁見の間より上の階にある自室。
部屋には、扉と窓。後は何もない殺風景な部屋。

俺の父である現在の王は、病により衰弱しているので口数が少なかった。
その側近が魔物に屈しないと。魔物娘からの友好的な外交を強く拒否したのである。
拒否するだけならばまだ良い。側近の部下は、彼女らに武器を振りかざしたのである。
自分は思わず飛び出した。魔物娘達は、過去人族に甚大な被害をもたらした存在とは違うのだ。彼女らを庇い側近の前に立ちはだかる。王族が魔物娘をかばう発言をするなどもってのほかだとは解っていた。当然追われる身となってしまったが、混乱に乗じて魔物娘を出口へ逃がし、自分は自室に逃げ込んだ。
今はこうして、扉に仕掛けている頑丈な鍵で事なきを得ている。
逃げ込んだとは、語弊がある。閉じ込められたのと同じだ。
「っさて」
自分は魔物娘の事を知っている。どうせ何処かでこの国を敵に回すような発言を自分でするだろうとは思っていた。もしかしたら役に立つのでは、と扉と鍵を頑強にしておいたがまさか本当に役に立つとは。あの時の自分を褒めてやりたい。
余程の兵器を使わない限りは絶対に開かないし、そんな兵器を使ったのなら中にいる人間まで木端微塵。
王子をまさか殺しはしないだろう。
どうするか、ベッドに寝転りながら考える事にした。

「……ねえ、起きてよ。ねえねえ」
どうやらあのまま、ベッドで寝ていたらしい。窓から見ると夕暮れに差し掛かっている。
衛兵が入り込んでいないということは、扉が上手く機能してくれたということだ。
側近も、どうせ逃げる事は出来ないだろうと諦めてくれたかもしれない。
そんなことよりも。
「誰」
黒い羽。美しい顔。彼女の肉体が語る曲線美。
魔物娘が、自分の隣に腰掛けていた。
「ええと。見てわかる?ハーピィよ」
ふんっ、と胸を張る。黒い羽がその動きで少し散る。
そうじゃない。違う、そうじゃない。
「何故ここにいるんだ?」
寝ぼけた頭で、何とか質問を捻り出す。
人間ならば、腕である箇所に存在する黒い羽に目が行く。
掃除が大変そうだ。そんなどうでも良い事を考える。
「え、さっきの騒ぎ、知らないの?」
彼女の黒い髪がさらりと揺れる。
いよいよ目が覚めて、彼女の全景が目に入る。
よく見ると、人間の腕に当たる部分には翼があり、手や足には鋭いかぎ爪がある。
最初はかぎ爪が出ていたが、彼女が自分の髪を撫でる際に爪が引っ込んでいた。
随分と機能的だ。それ以外は、人間と同じように思える。
実際に見るのは久しぶりだが、相変わらず人間にある程度近いのだなあと感心する。
「私達が送った使者が、すんでの所で殺されそうになったじゃない。確か貴方が救ってくれたのよね。ありがとう」
確かに、彼女らに武器が振るわれた。普段藁で作られた人形しか切ってない人間が愚かにも魔物娘に。
「目の前で切られるのはごめんだからな」
それでも、と彼女はベッドから立ち上がって礼をする。
面と向かうと恥ずかしい気持ちを感じる。どう言い訳をしようが、彼女は美しいのだ。
「んで、なんだ。俺を攫いにでも来たのか?それだけを言いに来たという訳でもないだろう」
ふん、と布団を被る。
「攫っても良いのだけれど、情報を集めに来たの。ほら、私飛べるし」
黒いけどな。と、彼女の翼を見ながら相槌を打つ。
ハーピィにもある程度種類があったような。普通のハーピィ、性質が大きく異なるブラックハーピィ、確か新種のサンダーバード……。
「い、良いのよ。ともかく。最近この国物騒じゃない。私達の国家に大きな戦争を仕掛けるっていう話を、友達の魔物娘が兵士だった夫から聞いたのよ。私に相談してきたの。そんな事、させる訳にはいかないじゃない。私達は、こんなにも人間を愛しているのに……」
自分の国は反魔物国家。魔物娘の関係を否定している。
このハー
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