「男、か弱い。アマゾネス、男、守る」
片言交じりのとつとつとした口調で、褐色の肌の女が……いや、魔物娘が、男の手を取りひざまずく。それはプロポーズだった。
「お前、私の、ムコ」
見つめられ、その瞳にこもる情熱に、ヤッカは息を呑む。
突然すぎる状況を飲み込めず、頭の中が真っ白だった。
「アマゾネス、愛するムコ、大事にする」
無骨で大きな手を握るのは、あいらしく、なめらかで、やわらかい、細い指。
握り返せば、折れてしまうのではないだろうか、ヤッカは思わずそう感じたが、それは錯覚に違いなかった。
ある日、ヤッカはアマゾネスの『男狩り』にあった。
そして、アマゾネスの婿になった。
ヤッカはのどかな田舎で育った。土を弄り、野良仕事で鍛えた体はいかつく、むさ苦しい。
自慢ではないが、村の中ではそれなりに腕っ節も強い方であったし、たくましい男だという自信もあった。
「ムコ。これ、果実、食べる。元気、出る」
それがなにゆえ、自分の肩ほどの背丈しかない、華奢で可憐な娘から、このような扱いを受けているのだろうか。
床に敷かれた獣の皮の上に座るように促され、あぐらをかくと娘が横へ来て座り、もぎたてらしい果実を差し出して、口を開けろとのたまう。ようは「はい、あーん」なシチュである。
「いやあの、食べるなら自分で剥いて……」
「ムコ、アーン」
「あ、てあの、そういうのは」
「ムコ。なぜ、食べない? これ、嫌いか? ダメか?」
「う……そんな顔、しないでくれよ。食べるから、あーと、いただきます」
「よし」
アマゾネスの娘はクグリという名で、この集落の中では、一目置かれた戦士のようだった。一見華奢だが戦闘時の彼女は、自分の身の丈ほどもある大剣を軽々と振るい、恐ろしいほど猛々しく敵をなぎ払う。
ヤッカは、一度だけその姿を目にしたが、思い出すだけで身の竦むような光景だった。
そんな彼女が慈しむように、ムコ、ムコ、と自分を呼ぶたび、ヤッカは何もかも夢なんじゃないかと首をひねる。
プロポーズの通り、クグリはヤッカを大事に扱った。こんな、図体のでかいでくのぼうを、まるでこの世の奇跡のように、愛し、守ろうとするから、調子が狂って仕方がない。
「うまいか、ムコ」
房状に生った果実を一粒、わざわざ皮を向いたものを、手ずから食べさせられ、ヤッカは戸惑いながら頷く。甘酸っぱくみずみずしい果汁が喉をうるおすと、気分が良くなった。
倒れる程でもないが、ねっとりと茹だるような密林の気候は、清涼な山育ちのヤッカの体力を奪った。精神的なストレスもきているのか、丈夫さが取り柄だっただけに、なんとも情けなくヤッカは落ち込んだ。
「その…世話かけて、すまん」
「男、か弱い、気にする、ない」
集落の小屋は木組みの壁に藁葺き屋根の簡素な構えだが、日陰があって風通しがよく、中が涼しくなるように作られている。所帯を持ったクグリ達は、広場を囲むように建てられた小屋の一つに、こうして二人だけで暮らしていた。
一つ屋根の下、ヤッカの面倒を見るのも、すべてクグリが行っていて、具合の悪いヤッカは、何かと甘やかされていた。大の男が、と、居心地の悪さを感じずにはいられないのだが、クグリのする事には、何だかんだで流されてしまうヤッカである。
「どうした、ムコ。もう、いらないか?」
「半分は、あんたのだろ。俺一人で食っちゃわるいよ」
果実をいくつか食べ、ヤッカはそう言った。自分のために用意してくれたのは嬉しいが、差し出されたものを、独り占めするのも気が引ける。
そんな気持ちで断ると、クグリは目を丸くして、きょとんとした。
それから訳がわかったという表情で、ふ、と口元を笑みの形に釣り上げる。
「ムコ、いじらしい。クグリ、うれしい……」
その瞳が妖しく光り、ヤッカは、ぎくりとした。
クグリは鎌首を持ち上げる蛇のように、ヤッカへにじり寄る。
近づいてくる、ふっくらとした桜色の唇に、視線が吸い寄せられ、慌ててヤッカは目を閉じた。
竜の手足のような翼と尾、片角に長く尖った耳。紫がかった銀色の豊かな髪はふさふさとして、褐色の豊満な体を流れる。アマゾネスは森や密林の奥地で暮らす蛮族。日に焼けた体には、申し訳程度の布が胸と腰に巻かれているのみ。彼女たちは飾り気がなく、他の者に裸体を晒すことに羞恥がないらしい。
かくいうヤッカも、この集落にきてから衣服は取り払われ、集落に住む他の男達と同じように、獣皮の原始的な服を着ている。膝丈のキトン風の長衣は、アマゾネスに比べれば露出は減るものの、ただ布を羽織ったような心もとない姿だ。
むっちりとした肉体が、あぐらをかいた膝に上り、おしげもなく迫ってくる気配に。ヤッカはごくりとつばを飲んだ。
「ヤッカ」
「待
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