ほかほか♡ホワイトホーンさん


 冬の山登りというのは、ふとした拍子で遭難や重大な事故を起こす危険なもの。
 でも登りたくなっちゃうのが人間の馬鹿なところであった。

「で、吹雪で降りれなくなるなんてな……ハハ……」

 馬鹿でした。
 ちょうどよく山小屋があったのが幸いして、吹雪が視界を覆い尽くして立ち往生してしまう前に小屋の中へと避難することができた。
 だけど、この吹雪が続く限りは山を降りることすらできない。参った参った。

 山小屋の中には乾燥した薪と暖炉があって、いつでも避難して火を起こせるようにされていた。おかげで凍死する恐れはまずない。食料に関しても、手持ちのもの以外にも山小屋に置かれた保存食があれば二日は持つだろう。
 山の天気はころころ変わるというのは本当で、吹雪が止んですぐまた吹雪が吹いたりもする。なので、吹雪が止んだからと油断してすぐ降りるのは危ない。自分の命を大切にしたい時のベストな選択肢は、レンジャーが来て助けてくれるのを待つだけだったりする。
 見たところこの山小屋は頻繁に物資が補充されているようだし、あんまり絶望的でもなかった。だからといって安心できてるわけでもない。救助が来ることを祈るしかないわけだし。


 そうして火の面倒を見ながら山登りを反省していると、乱暴に扉が開かれ、

「遭難者は何人いますかっ!?」
「……おおう」

 吹き荒ぶ雪を背後に、美しい女性――いいや、魔物娘が室内へ声を張り上げた。
 上半身はもこもことした防寒具に身を包み、下半身は長毛でふかふかの有蹄類。いわゆる半人半獣というやつ。優しさと力強さが同居する毅然とした佇まいもそうだけど、何よりその顔立ちが美人そのものだった。すっと凛々しく冴えた目に蒼い瞳に、艶々として柔らかそうな唇が大人の色香を演出していて、寒さからか赤くなっている鼻が少し可愛らしい。さらさらの白いロングヘアに雪が絡まっていて、その上には立派な鹿角が構えていた。
 自分にも知識はある。彼女は魔物娘の中でも人間に友好的な、ホワイトホーンという種族だ。

「……お一人ですか?」

 そうしてじろじろ彼女を眺めていると、確認するように尋ねてきた。いかん、見惚れてて返事するの忘れてた。魔物娘はみんな美人揃いなせいでついつい目が奪われてしまう。
 一人です、と答えつつ外に出る支度を始める。というのも、

「なら、ささっと麓まで運んでいきます。お説教はその後でしますからね」

 彼女たちホワイトホーンはそれぞれ受け持ちの山小屋を巡回しているレンジャーなのだ。
 人間に友好的というのはこういうことで、ホワイトホーンはよく遭難した人間を救助している。反魔物思想の人間ですらホワイトホーンだけはお目こぼしするくらいに人間との関係が深い。
 中にはホワイトホーンと結婚する人間もいて、遭難者を救助するネットワークは広かったりする。そのせいで山登りは安全なレジャーだ、と誤解されることも。避難できる場所もなく遭難してしまうと死ぬ確率がかなり高いので、救助されやすくても危険なものは危険だ。いくら文明が発展しようとも山の危険さは変わらない、気がする。たぶん。

 火の始末をして山小屋に謝礼を残し、外に出てホワイトホーンさんの背中に乗せてもらう。
 視点が高くてなんかちょっと楽しい。……なんて考えてると両手を引っ張られて、がっしりとホワイトホーンさんのお腹を抱えさせられる。

「吹雪の中を突っ切ります。しっかり掴まってないと落ちますからね?ちゃんと防寒具全部着込んでますか?毛布があるならそれも羽織るべきです。帽子は破れてませんか?耳まですっぽり被って守ってください。それから、――――」
「は、はい」

 ……手慣れた様子で一つ一つ注意をしてくれる。お母さんかよ。
 言われた通りに防寒を完璧にして、改めてホワイトホーンさんのお腹に掴まる。
 これで帰れる。そう思うと、現金だがほっと安心してしまった。

「さあ、行きますよ。少々手荒になりますから、気を強く持ってください」
「安全運転!安全運転で!!」

 すっごい不穏なこと言ってるんだが!?


 ――で、そうしてホワイトホーンさんの背中で揺られながら下山し始めて。
 魔物娘なだけあって、雪や強風で足を取られるようなこともなくがしがしと降りていく。ルートは完璧に把握しているのか、吹雪の中では視界が全く効かないはずなのに歩みに迷いがない。人間や馬なら確実に疲労で動けなくなると予想できるハイペースさなのに、彼女に堪えた様子はすこしも窺えない。
 顔や身体は人間でも、基本的な部分は人間より遥かに強靭なんだ。たくさん防寒具を着込んでいる自分より、もこもこの防寒具一枚だけの彼女のほうが暖かそうに見える。
 まあ、そうか。自前で毛皮を持っているんだから。こういう場面では純粋に羨ましく思
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