ひゅおん。どすり。ひゅおん。ぐちゃり。ひゅおん。ばちゃ。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度でも剣を振り下ろす。
刃が腱を断ち斬るたびに、ワタシの身體は淫らに声を上げる。
刃が胸に突き立つたびに、ワタシの背筋がぞくぞくと震える。
刃が腹を引き裂くたびに、ワタシの子宮がびりびり熱くなる。
刃が額を叩き割るたびに、ワタシの欲望が不満足に充ちゆく。
ああ、ああ、ワタシはなんで斬ってるんだっけ。
気持ちいい。そうだ、気持ちいいんだ。肉を斬るだけで気持ちいい。
なんで気持ちいいんだろう。肉を斬ると、その顔が気持ちよさそうだから?
お母さんもお父さんも、人に求められる愛される良い人になりなさいと言っていた。
きっとこれがそうなんだ。気持ちいいことはいいことだから。
それに、お父さんも肉を斬っていたんだから、ワタシも肉を斬るのは当たり前だよね。
でも、お父さんは肉を斬るのが気持ちいいことだなんてちっとも教えてくれなかったな。
肉を斬ると、その肉は人になる。それもいいことだと思う。
だから肉を斬るんだ。私は良い人になるんだから、肉を人にしてあげるんだ。
人にしてあげたあとは、みんな笑顔でありがとうと言ってくれる。
ありがとうって言葉はいい言葉だ。だからワタシは、いいことをしてるんだ。
毎日いいことをすれば、それだけワタシもいい人になれるんだよね。
四肢の腱を斬り、心臓を突き、腹を裂き、額を割り、肉が人になるまで剣を振るう。
気持ちいい。気持ちいい。だけど少し、なにかが足りない。
気持ちいいのに満足できない。ありがとうって言われても、ワタシは満足していない。
人に刃を向けちゃダメだって教わってるから、肉が人になったら斬れない。
もっと、もっと欲しい。ずきんずきんと熱を放つワタシは、逃げ出す肉の背中に近づき――――
☆
俗称「飢血の剣の女」は街を脅かしているお尋ね者の魔人鬼である。
彼女の持つ赤黒い魔剣で斬られた者は例外なく魔物となるため、魔人の罪によってその首に賞金がかけられている。一般的な殺人者や重犯罪者よりも二つほど上の高額な報酬だ。半年は遊びながらでも悠々と暮らすことのできる金額。そしてそれは、彼女が異常な危険さを持つことと早急な対処が求められていることを意味していた。
衛兵隊や腕に覚えのある傭兵、狩人、魔術師などの大勢が協力して山狩りや夜中の警備などを行っても、彼女を捕らえることは依然としてかなわない。
厳戒態勢の中で影すらも掴むことができないのに、毎日誰かが行方知れずとなっている。
飢血の剣、という二つ名の命名元は目撃者からだ。
娼館に務めているという目撃者は、一仕事を終えた夜に窓から外を眺めている際、倒れ込んだ人間と思しきものに幾度となく大ぶりの剣を振り下ろしている半裸の女性を見たという。その剣は赤黒く脈動し、斬っても血が出ていないことから、剣が血を吸っているのではないかというのだ。
その上、斬られていた人間は急に起き出して女性に一礼し、何処かへと飛んでいったという。サキュバスのような羽によって、文字通り空へと。
目撃報告から衛兵の行動は迅速かつ最適解だったが、しかし該当の犯罪者が神出鬼没というのでは捕まるものも捕まえられない。別口の犯罪者が見つかって、事件が何件か解決したのは僥倖だが、あくまでも対処しなくてはいけないのは飢血の剣の女だ。
事態を重く見た衛兵隊は教団への救援を要請。人材不足の教団は勇者を一人派遣すれば事態の解決が可能だろうと概算し、招集に応じた中堅の勇者を任務に当たらせた。
――そして、その勇者はといえば。
「オラッ吐け!吐くんだ!情状酌量の余地はあるから!島流し先っちょだけだから!」
「吐く前に折れます!ギブギブ!!お……折れるう〜〜〜〜〜〜!!」
街の外の雑木林でオークにアームロックを極めていた。
「人体には骨が百本とか二百本とかあるんだよ!腕の一本くらい大丈夫大丈夫!」
「わかりましたから緩めて!逃げませんからー!なんならパンツも上げますから離してぇー!」
「え、マジで?乱暴働いてゴメンな……話がわかるんだな……」
「パンツで絆されるのかよ!」
ぱっと解放されたオークは尻もちをついて、涙目で目前の勇者を眺める。
軽装の鎧で身を固めた青年。一見ただの冒険者に思えるが、その実力は桁違いだ。戦いに身を置いているものや魔物であればすぐに察知できる威容。オークは既に逃亡を諦めていた。
しかし妙な人物だなとオークは思う。勇者ならもっと豪華な装備をしていてもいいはずなのに、佩いている剣も身につけている鎧もごく普通のものなのだ。戦闘や探索に役立つルーンの一つくらい、魔術刻印されていたとしてもおかしくはないのに――。
しか
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