Rental L.o.o.o.o.ve


 今日はいちごのパックを買った。
 旬の時期だから美味しいんだよな、という理由だ。五百円というのは学生の身分では命に届く出費ではあるけども、これは自分で食べるわけではなくて、むしろ五百円で済むというのなら驚くほど安いもんだった。

 スクールバッグを背負うように肩に掛け、片手にスーパーのビニール袋を提げて、傍目から見れば「学校帰りにお使いする親孝行な中学生男子」といった雰囲気を纏いつつも、足が向いている先は家族と住む家じゃなかった。
 住宅街に埋没している安そうなアパート。関係のない敷地に入る後ろめたさは通ううちに消え失せていて、103号室のインターホンを鼻歌交じりに押す。
 ドア越しに聞こえるチャイムの音にやや遅れてのっそりとドアが開く。
 そこから覗くのは、

「や。なに買ってきたん?」
「いちご。安かなかったけど。果物のほうがいいんだろ」
「おっ、いいね〜〜。まいどどーもね〜」

 緑色のショートボブ。幼めの可愛い顔立ち。それと、等身大のアオムシの身体、ぴこぴこと嬉しそうに揺れる頭頂部の触覚。だぼついた袖を想起させる一対の腕らしきものから伸びる疣足。低めの背丈から見上げてくる視線は嘲笑まじりの含み笑いでいかにも小生意気だっていうのに、小さな胸もややぽっこりとした腹もY字にくぼんだ下腹も隠さず、少女は本当に一糸も纏わない姿で恥ずかしげもなく玄関先に立つ。
 魔物娘――グリーンワームに招かれて、後ろ手に玄関扉を閉めた。

「でもさあ。このままあたしに課金してると、そのうち破産しちゃうんじゃない?」
「そこまでのめり込んでないだろ。あ、ちゃんと洗ってから食べろよな」
「あいあい。水道止まってなきゃね〜」
「仕送りもらってるんだろお前……」
「まあねー。でもああいうのってめんどくさくってー」

 日常に溶け込んでいる異物でも、部屋の中はいたって普通だ。
 やや大きめのベッドには充電中のスマートフォンが投げ出されていて、安っぽい液晶テレビは黒く沈黙中。回収日を待っている大きめのゴミ袋は案外少なく、ちゃんと毎回回収場所に持っていっていることに感心させられる。
 台所でステンレスのざるにパックの中のいちごを全部出して、じゃばじゃばと雑に洗う手つきは人間らしいものだけど、背丈が足りないからって身体をシンク下の収納扉にひっつかせているのはアオムシだということを如実に表していた。

「なあ、すだち」
「ん〜? なあにー」
「その姿で人間スケールの家具使うのってしんどくないか? 学校で人間に擬態できてるんだから、家でもそうすれば楽だと思うんだけど」
「べっつにー。むしろ人間になってる方が疲れるなあ。視点が高くってさあ」
「マジか」
「まんじまんじー」

 けだるげな言葉にはなんの気負いもなくて、この先に期待してるのは自分だけなんじゃないかって気になってくる。そりゃそうだし、悪くはないけど。
 彼女のぷにぷにとした身体を背後から眺めると、無性に抱きつきたくなってたまらない。なんなら顔を合わせた瞬間からずっとだ。中学生男子のささいなプライドが自制をしてくれていなければ彼女の邪魔をしていたに違いない。
 そもそもこの場所に足繁く通っている時点でプライドなんて瘡蓋は剥がれかかっているのかもしれなかった。既に周囲からなんと言われようと構わなくなっている。

「よーし。洗ったー。ベッドいく? お風呂でもいいよー」
「……風呂は狭いだろ」
「んー。素直じゃないよねー」
「うっせえ……」

 小馬鹿にした笑い方を、咎めることもできない。
 ざるごと抱えてのそのそ動くすだちをじれったく思いながら、自分は自分で服を脱いで畳んでいく。学生服を汚したらバレてしまう。
 シャツとパンツだけになる頃には、すだちはベッドの上でだらりとくつろいでいた。
 両手の疣足で一粒のいちごを口元で保持する姿は小動物的で愛らしいと思う。
 けれど、もう、自分は彼女のことを肉欲的にしか見れなくなっていた。

「ん〜。甘酸っぱくておいしーねー。んまんま」
「……すだち」
「おすきにどうぞー。いちごおいしいから、今週はずっとおっけーにしとくねー」

 たった五百円で、一週間――。目眩がするほどに魅力的な言葉だった。
 うんとかああとか、熱に浮かされてろくな返事ができなくなる。唾が喉を鳴らす。
 ベッドに投げ出された彼女の柔肌は、遮るものも守るものもなく無防備すぎる。ただでさえミニマムな胸は重力に従ってただの板になり、だけどぷっくりと膨れた色素の薄い乳首と乳輪が懸命に起ち上がっていた。肋にへたりこんだ第一疣足がかろうじて乳の下限を教えてくれているくらいで、幼児と変わらない。
 その下にはぽっこりと内臓の存在を意識させるお腹がある。一日中なにかを食べている彼女は、その分脂肪もついているはずだと
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