失踪者遺失物映像記録―十月八日付

――スマートフォンの内カメラに男性の顔が写り、朗らかな表情で説明を始める。行方不明であるこの男性は、この時点では興奮してはいるが正常である。周囲は暗く、キャンプ用品のLEDランタンがかろうじて男性の周辺を照らしていた。

 えーと、十月三日、土曜日。あ、こういう記録って年も言ったほうがいいのかな?2016年ね、今。
 俺はいま、ゲインヴィル街道近くの地下墓地に来ています。撮影許可取ってるからね、一応。
 なんでこんなかび臭いところにいるかっていうと、どうも地下墓地の地図に載ってない空間を見つけてしまったわけですよ。それが歴史的発見だった際に俺が見つけたっていう証拠になればな、と思って。墓守さんが言うには、この地下墓地は数百年前からあるらしいし、お宝ありそうだよね。
 というわけなので、さっそくその場所へ向かっていきたいと思います。

――外カメラに切り替わり、左右に並べられた小さな棺桶用シャッターから、近代的に改装された地下墓地であることが窺える。天井には等間隔に電球が吊り下げられているが、点灯されていない。床は木材で舗装されており、歩きやすそうに見える。映像はしばらく地下墓地内を進むのみで進行し、まだ目立った異変は見受けられない。男性は間を持たせるために身の上話を始める。声色からは興奮を隠しきれておらず、冷静ではない。

 それで、俺がなんでこんなところの隠し部屋を見つけられたかって話ですけどね。
 仕事の関係でこの辺に引っ越してきて、何か観光しておくと良い場所はあるかなってツイッターで呟いてみたんですよ。そしたらオカルトが好きなやつが、地下墓地あるじゃん探検してきて、なんてリプライよこしてきて。俺もホラーは嫌いじゃないし、試しに行ったわけです。
 まあ、当たり前ですけど何もなかったですね。ここって地元の人が普通に利用する墓地なので、ちゃんと管理されてますから。スケルトンとかゾンビが歩いてたら、こんな墓地でも遊園地なみの人気になりそうなんですけどね。それとも世界がゾンビによって滅亡する方が先か。ハハハ。
 でもね、見て回って何も無しか、って落胆してる時だったんですよ。地図持ちながら歩いてたから、自分がいるだいたいの位置は把握できてたんです。ふと横を見ると、階段がありましてね。もう一階下があるのか、と地図を見てみると、どこにもそれらしきことが書かれてない。
 ピンと来ましたね、これは隠し部屋だって。従業員用の作業部屋とか、渡された地図が古かったとか、そういう可能性もありますけど、そんなの夢がないでしょ。
 それに、墓守さんに聞いてみても、階段なんて見た覚えがないとのことで。この地下墓地は横に広がってるものなので、もし下があって隠されてたとしたなら、過去の貴族とかが秘密裏に設けた宝箱の可能性だってありますでしょう。呪われそうだったら、まあ、帰ります。
 さて、そろそろ見えてくるかな?あの辺りだったと思うんだけど……。

――男がランタンを前にかざすと、僅かに横道が確認できる。これまで隙間なく配置されていた棺桶用シェルターや、等間隔に電線で繋がれた電球、舗装された床は、横道の周囲だけ存在しない。まるで横道が無理やりこの場所に割り込んで作られたかのような、違和感のある風景だ。男は迷わず来れたことに安堵し、違和感に気づいた様子はない。

 良かった。アレです。生きて帰ってこられることを祈って、行ってみましょう。

――横道の前に到着すると、男性が述べた通り下へ向かう階段があった。階段の先はランタンの光が届かず、近代的な様相も見受けられない。壁面と床の材質は砂利と土。階段は石で作られておらず、同じく砂利と土によって成されていたが、男性が一歩踏み出しても崩れる様子はなく、非常にしっかりした作りになっていた。男性には、先へ進むことへの躊躇いなどは見受けられない。

 ちょっと暗いですね。このランタン、けっこう高かったんですけど、稼働時間も光の強さもお値段相応だと評判だったので買ったんですよ。それでも先が見えないってなると、かなり下るのかな?
 ともかく行ってみるしかありませんね。あんまり長いようなら、アップロードする際にカットか倍速の編集しておきます。まあ、長くてもせいぜい十分程度でしょう。

――転げ落ちないように注意はしつつも、駆け足気味で一段ずつ下っていく。階段を下り始めて五分ほど経過すると、男性が小声で不満を呟き始める。八分時点で苛立ち始め、十三分時点で独り言は一般的な話し声にまで大きくなり、その内容は全て階段の長さに対する鬱憤だった。しかし二十分経過すると唐突に階段が終了し、開けた空間に到達した。男性は未だに苛立ちが残っているらしく、他人に見せるために取り繕っていた丁寧な言葉遣いは消え失せていた。

 やっと階段が終わった……。な
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