山から吹き下ろす風が木々をざわめかせ、湖面を波打たせていく。
鳥たちの囀りには生まれたばかりであろう小鳥の声も混じり、頂点に達しつつある春の太陽を快く迎えているように思えた。湖に注ぎ込む緩やかな川で、ちゃぽんと魚が飛び跳ねる。
「良い風ですね」
「……ああ」
後ろから掛けられた淑やかな声に、振り向きもせず答える。
地面に突き刺した釣り竿と、水面に伸びる釣り糸を監視してるからだ。釣り竿つってもその辺に転がってる長い木の棒に糸巻いただけだがね。
こんな雑なやり方じゃあ当然だが、恐らく、今日も釣果ゼロに終わる。それでいい。俺の本業は別にあるから、釣りなんて暇なときにやる趣味の一つでしかない。例え釣れても戻すだけ。
無駄なことをやるのは、個人的には落ち着く。この仕事は冷静さが重要で、リラックスできりゃそれこそなんでもいいんだけど。たまたま湖があったから今回は釣りだった。
座っていて凝ってしまった身体をぽきぽきと小気味よく鳴らしつつ、背後にいる彼女――長年連れ添ってきた仕事の相方をちらりと一瞥する。少々の邪な感情と共に。
「ぁむ。んん、これ美味しいですね。どこのお店でしたっけ」
「大通り二番の中央広場近く、メロヤおばさんのパン屋。あのおばさん、いいって言ってるのにいつもおまけしてくれるんだよな。あんなんじゃ潰れるぞ」
「ふふ。ロビンは優しいんですもの。おまけしたくなるんですよ」
「そうかい……」
焚き火の前でサンドイッチをつまむ、一人の女性。
両足を揃えて座り、膝を抱えながら食事する姿は素直に微笑ましいと思う。
きりりと芯の通った、狼を彷彿とさせる美人顔に、艶のある黒い髪を短くしてセミショートボブに整えてあるのがよく似合ってる。彼女の近くに鎮座する特注のロングソードも美しく、例えば彼女が剣を佩いている時の立ち姿は美術品並に様になっていた。
口調だって恭しく、どんな者にも敬意を払う。礼儀正しさは彼女の人気の一つだ。
残念なのはその服装というか、鎧くらいなもの。
服の表面に小さな鉄板を隙間なく鋲打ちした鎧――ブリガンダインアーマーに、ところどころ泥が染みついた茶色い羊毛のサーコートを着用している。
女性の平均よりも高めな身長とあいまって、全体的な仰々しさは放浪の騎士そのもの。もっとちゃんとした鎧を着せてやりたくなる。悲しいことにそんな大金はないんだが。
本人の身体的特徴をあまり言ってやりたくないが、こいつは胸もかなりデカい。そのせいでアーマーもサーコートも微妙に丈が足りず、へそが見えてしまってる。本人は大して気にしてないっぽいが、こっちのほうが心配になってくる。恥ずかしい。
アーマースカートもあまり金を掛けられず、膝上二十センチほどのマイクロミニ丈になってしまっている。一応、グリーブに関してはそこそこのものなので爪先から膝までを完璧に防護できてるが、それが却ってふともも丸出しの痴女にさせてしまった。
で、痴女といえばこれが一番問題だが、こいつ、パンツを履かない。
今も――本人は俺の視線を気にしてないので――三角座りで持ち上げられたスカートの中から無垢な縦筋がコンニチハしてやがる。コンニチハじゃないだろ。サヨナラしろ。
深く嘆息しながら湖に向き直り、額に手を当てる。
こいつがパンツを履いてないことに気づいたのは、いつだろう。
けっこう昔から一緒に居て、この仕事――冒険者を一緒に始めて。
気安い仲だとは言っても、俺は気配りできる男だ。不用意なことは言わないし、それがデリケートなことなら尚更。あと単純に、パンツ履けなんて指摘するのが恥ずかしい。
冒険者をやってく以上、こいつが変なことに巻き込まれないためにも、恥を忍んで女性もののパンツをそれとなく彼女の荷物に潜り込ませたこともある。何度も。
それでも頑なにパンツを履かない。たぶん、俺が言うまではずっとこのまま。
歩くたびにひらっひらとスカートが揺れるし、だいたい後ろを歩くことが多い俺にとってはマジで気が気じゃない。俺以外の誰かに見られるのは心底ごめんだ。……なんて思いつつ、ぷりぷりな丸出しのケツとその谷間から見えるケツ穴をガン見してんだけども。
……俺も年頃の男子、青年ですんで、そりゃあもうそういうことに使うし、最近はもう諦めている。その分、変な虫が寄りつかないように全力で守っているが。
けれど、こいつは剣の腕が立つ。自身の実力を謙遜も買いかぶりもせず、ただ身についたものとして扱う。だからか、逆に俺が守られる始末。情けない。
この際言ってしまうか、と振り返って――
「なあ、フレア」
「んふ。なんですか、ロビン?」
「……いいや。なんでもない」
「呼んでみただけってことですか? えへ、そんな、恋人みたいなことしなくたって」
「う
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