――僕の家系は、代々サバトに仕えるものとして繁栄してきた。

 父は魔女と結婚し、祖父はバフォメットと結婚し、大祖父もバフォメットと結婚したらしい。
 そういうわけなので、自分の母親も祖母も小学生くらいの外見だった。魔物の魔力によって父も祖父もずいぶん若々しいけど、それでも普通の人間だと誰もが言えるはずだと思う。はっきり言って、大の大人と見た目が幼い少女の二人がいちゃいちゃしてるのを見るのは、なんというか、物凄い絵面だった。サバトが世界に名立たる魔術機関じゃなかったら警察の厄介になってる。

 僕はと言えば、このロリコン家族の中で育ってきた男として、「普通におっぱいとケツがデカいむちむち女性がいいな……」という結論に達した。ホルスタウロスとかカク猿とか。
 だって、小さい女の子なんか家でずっと見てきたし育てられたし叱られたし、父といちゃついてるところを見せられてきたんだ。キツいに決まってる。
 自分が父たちと同じようにロリコンになったとしても、どうにも母親と祖母のことが脳裏にチラつくように思えてならない。オカズもそういうのは避けてきたくらいだ。
 こうした理由で、父母が赴くサバトの集会に参加したこともない。興味が沸かなかった。

 そうして二十の歳月を過ごして大学に通う立派な青年となった頃、僕は完全に行き遅れをこじらせた童貞と化していた。何より自分に非があると自覚していることが救えない。
 僕自身に中途半端な魔法の才能が宿っていたせいもあって、「自分が理想とする、ナイスバディで気立てがよく振るまいも凛々しくて親しみやすい上に笑顔が素敵で可愛らしい一面もありながらエロいことばかりでもなくしっかりと物事を考えられるお洒落な美人」と出会いを果たすまでは、と魔法による護身を完璧に施してしまっていた。
 これが失敗だった。

 思えば、チャンスはいくらでもあった。
 ユニコーンさんやサキュバスさんに狙われたことはいっぱいあるし、旅行先では浜辺でメロウさんと遊んだり旅館で花嫁修業をしているらしい龍さんと話をしたこともあった。他にもいろいろと出会いはあったけど、いつの間にかみんな、お似合いの伴侶を見つけていた。
 高望みしすぎた結果、どんな女性も望みとちょっと違っただけで拒否してしまい、そんなことをしている内に友人は全員嫁さんを見つけ、余計焦って高望みが先鋭化していき……という具合。
 最後に残ったのは、二次元にしかいないようなアルティメット完璧美人を探す偏屈青年だった。



「大人しくサバトに入っておけばよかったのに」

 母さんはいつもの口癖を僕に投げかけながらも、親として優しく相談に乗ってくれていた。
 家庭を持ったことで落ち着きを得るのは魔物娘にとって共通らしく、母さんは幼い容姿とは裏腹に豊富な知識を懇切丁寧に教えてくれる。それでも、婚活というジャンルに関してはやっぱり苦手のようで、親子揃ってずっとお手上げ状態。
 そもそも魔物娘は、結婚に急いで悩むことは殆ど無い。そりゃそうだ。

「ねぇ、有己。あんまり根を詰め過ぎても、却って悪循環にならない?」
「だけど、時間がある今のうちに彼女を見つけないと……」
「一旦そのことから離れて、落ち着いて視野を広く持つってことも重要だと母さんは思うな」

 永遠に少女の姿の母さんは、僕を慈しんで育ててくれた。今ではこっちが見下ろすようになってしまったけれど、僕を「有己」と呼んでくれる時の優しさはずっと変わらなかった。
 母さんの言う通りなのかもしれない。焦る気持ちだけが先走って空回りしている可能性はある。今時は婚活相談所なんてものもないし、出会いを斡旋するサービスは一時期ちょっと流行ってすぐに廃れた。今の社会、相手に出会わないほうが難しい。そして僕は難しい方向に進んでる。
 だから、と母さんはしっかりこちらを見て、微笑みかけながら提案してくれた。

「旅行でもしてきなさい。都会から出て、ひとしきり遊んで休まなきゃ。恋人ができたら一人で自由に遊ぶってこともできなくなるんだから、独身を謳歌しようよ」
「旅行か……」

 ここしばらくはしてなかったことだ。溜まったストレスを発散することも、きっと婚活には重要な要素なのかもしれない。怖い顔をしてちゃ、逃げられるだけだ。
 独身を謳歌する、というのも一理ある。魔物娘は束縛が強いから、一人で遊びに行くことなんて早々出来なくなるものらしい。友人にだって、「有己のことが羨ましい」と言ってくる奴もいる。それなら今のうちに出来ることをやっておくべきなんだろうな。

「ああ、そうそう。お祖母様の妹にあたる方が避暑地の別荘に住んでるんだって。なんでも数百年は独身貫いてずーっと魔法の研究してるらしいから、魔法の勉強しに行くってのもいいんじゃないかな?有己はそこそこ魔力扱
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