――意識が浮上する。目を開く。見慣れた天井と部屋に入ってくる朝の陽光と、
「ぐうぅ〜〜〜……ふすぅぅぅぅ」
……うるさい寝息が、寝ぼけた頭を徐々に覚醒させていく。腹の辺りが重いし、寝汗じゃ済まされない湿り方をしている。服を着ていないのが幸運だ。
「クウカ、起きろ。邪魔だ邪魔だ」
「ふごっ」
ぶさいくな寝顔をこのまま眺めるのも良かったが、こいつはどこでも寝ることができるんだ。今眺めなくたって良いと判断し、起こす。腹の上に乗った頭をぽすぽすと優しく叩き、彼女の毛を撫でて整えてやる。すぐに彼女もぱちぱちと大きな瞳を瞬かせ、次いで大きなあくびを吐き出す。
「ふぐわぁあ……ぅ。うぁーっ、ごすじん、おぁよ……」
「おう、おはよう」
上体を起こしてぐっと伸びをし、とても眠そうに挨拶をしてくるクウカ。彼女が離れたことで、朝の寒さがびしびしと肌を刺してくる。思わず身震いしながら、こちらも身体を起こす。
「んー?ごすじん寒い?」
「お前は年中暑そうだな」
とぼけた頭の割には、こちらの仕草をよく見て気遣ってくれる。こちらのちょっとした震えを見て、問いかけながら腹へと抱きついてきた。彼女の綺麗な毛並みに再度包まれ、温かい体温が伝わってくる。視界の端ではふさふさと毛が生えた尻尾が左右にゆっくりと振られ、こちらを見上げてくる彼女の目は不安に揺れている。
顔立ちは可愛い女の子でも、身体には犬の毛が生えているし、犬の耳も犬の尻尾もある。茶系の毛色に身を包み、その下の肌は目を奪われるほど白く美しい。
「かぜ?ごすじん、かぜひいちゃった?だいじょぶ?」
すこしクウカに見とれていたが、眼前にクウカが黒い瞳で覗きこんできて、思わず笑みが溢れる。もちろん、風邪なんかを発症したわけじゃない。ちょっと寒かっただけだ。それでも彼女は大げさに心配して、全力でこちらを温めようとする。彼女はいつだって、主人の危機には全力を尽くして対処しようとする。
彼女は遊ぶときも寝るときもこちらのことを見ているし、こちらのことを考えてくれている。もっさりした毛に包まれた小さな身体で、常に忠犬であろうとしてくれる。そんなコボルドのクウカがたまらなく愛しくて、
「ん、大丈夫だ。クウカはいい子だな」
「わぁ!わぅんわぅん
#9829;」
ぐいっと両手で脇腹から持ち上げて、抱きしめてやる。右手で首を撫で、左手で背中を擦る。こうするだけで、彼女は甲高い声で嬉しそうに鳴く。尻尾もぶんぶん振り回し、こちらの肩口に顔を埋めてくる。彼女が嬉しいなら、こっちだって嬉しい。130センチほどしかない体躯を抱きしめていると、心がとても安らいでいく。
数分ほどそうしてやるが、彼女から身体を離すことはないのでそのまま首根っこを掴んで無理やり引き剥がし、不満げな表情のクウカを無視して朝の支度に向かう。
「ごすじぃーん……」
「後でまた構ってやるから、そこで寝てな」
「ふぁーい……くうん」
こっちだって後ろ髪を引かれる思いだ。縋りつくような声のクウカを一蹴し、寝させてやる。主人の布団に包まれながら寝られるんだから、寂しい思いはしないだろう。顔を洗って飯を作ってやって、それから散歩。日課をこなすために早寝早起きする。飼い犬のためならなんとやら、だ。
☆
「ふんふんふふーん♪」
鳥のやかましい囀り合いの中、クウカと手を繋いで昼前の林道を歩く。手を繋ぐと言ったって、こちらが引っ張られる形なのは変わらない。彼女がもっと幼いころは首輪だったが、彼女が成長してオツムが成長したことである程度はこちらに従ってくれるようになり、首輪は窮屈だろうということで付けなくなった。代案として手を繋いで散歩することを提案したら、彼女は諸手を上げて飛び上がった上にすごい勢いで腹を見せてきた。
それからずっと、こうして恋人のように手を繋いで散歩している。最初は気恥ずかしかったが、嬉しすぎて弾けてしまいそうなほどのクウカの笑顔を毎日見せられたら恥ずかしいなんて言えなくなる。
「ごすじんごすじん!」
「ん、なんだ?」
「えへへー、くうか、ごすじんだいすき!」
「お……おう、ありがとな」
極めつけはこれだ。不意に振り返って抱きついてきて、尻尾を小刻みに振り回しながら大好きという言葉をぶつけてくる。思ったこと感じたことはすぐに伝える、彼女らしい振る舞いだとは思うが、あまりにも可愛いせいでついそっけない対応をしてしまう。
でも、彼女はこちらの反応など気にしない。というよりも、自らの主人に大好きと言って拒否されなかったことだけで頭がいっぱいになってしまい、こちらの反応の薄さなんて気にならないくらい嬉しい、といったところだろうか。
「えへへへへへぇ〜〜、わふわふ
#9829;」
こちらの腕に頭を寄せ、ぐしぐしと擦りつけてくる。彼女のこ
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