セミの声もうるさくなってきたなー、とのんびり窓の外を眺めていると、部室の扉を開く音。
「……なんでうちの部室にはクーラーがないんだ」
「すごい汗だくですね、先輩……」
部室に入って開口一番、地獄みたいな声で呟きながら先輩は肩を落とした。
栗色のショートボブヘアが汗をぼたぼた垂らしてるし、先輩もしんどそうな表情をしてる。
当然だろう。朝の天気予報を見た限りでは、今日の最高気温は35度くらいまで行くらしい。まだ昼とはいえ、30度はすでに超えていると思う。俺も汗まみれだ。
「そもそも扇風機すらないじゃないか。夏休みがなかったら死ぬぞ、私」
「明日までの辛抱ですよ。今週終わったら三連休ですし」
「やけに我慢強いな、後輩は……。どこかから扇風機の一つくらい拝借したいんだが」
「どこも絶賛稼働中だと思いますけど。大人しくしときましょう」
「これだから夏は嫌いなんだよ……」
不機嫌そうに席につき、さっさと昼食を摂り始める先輩。
暑そうだもんなあ、この時期の毛皮持ち魔物娘は特に。
今日は優しくしておこうと考えながら、こっちも弁当を開ける。
「あー、アイス食べたい……」
「坂を降りたところのコンビニに行けばいいじゃないですか。混んでそうですけど」
「距離がキツい。戻る時が一番キツい」
「ですよねー」
日陰も少ないもんな。
「うう、どうしてこんなモッサモッサするパンを食べないといけないんだ」
「冷やしカップ麺でもすればよかったんじゃ……うちの部なら氷も作れますし」
「……あ。ぐおお……」
「暑さで頭回ってないんですね、先輩」
パンの前で頭を抱える先輩。泣き出しそう。
大方、混んでる購買から早く抜け出したいがために、ろくに考えずパンを選んだんだろう。いつもやってるみたいに。手癖っていうのはこういう時にばっかり悪さをする。
「明日、明日やろう……今日はもう、ダメだ」
「いやいや、諦めないでくださいって」
先輩は食事もそこそこに身体を机に投げ出して、残りのパンに目もくれない。
一個だけ食べてちゃんとお残ししてないのは偉いけども。ていうかもう食い終わったんだ。さっき手に持ってたやつ、それなりに大きく見えたんだけど。
「ほら先輩、水飲んで。俺の飲みさしですけど」
「む……たしかに汗をかきすぎたな。ありがとう、もらうよ」
「先輩のその食欲不振、ただ単に脱水してるだけなんじゃないかと思うんですよ」
そんなわけないだろー、なんて表情で先輩はペットボトルを煽る。
ワイシャツも無残なくらいびしょびしょだし、明らかにヤバいって感じる汗の量だぞ。
「ぷはっ、あぁ〜染み渡る。元気出てきた」
「手のひら返すの早いっすね」
水飲んだ途端にイキイキし出した。コントかよ。
こまめに水分補給しないとこうなるのか。改めて気をつけよう。
☆
夏休み目前というだけあって、夕方頃には校舎は静まり返っていた。運動部は休みだ。
運動部には夏休み中の活動もあるから、夏休み前くらいはこうして休みにしたりもするだろう。料理部にはそんなものはないし、だけど今日わざわざ部活をやる必要もない。
というわけで、フリーの日だった。
「後輩は何をやってるんだ。もうそろそろ長期休暇だというのに勉強か?」
「ああ、ちょっと。今のうちから宿題をある程度やっておこうと思って」
「宿題……?宿題って何のだ」
「それはもちろん、夏休みの宿題ですけど」
「夏休みの……?……宿題……?」
「宇宙を目の当たりにした幼児みたいな顔してますよ」
部活もないのに放課後まで残ってやることがいちゃつくだけって状態に比べたら、かなり建設的でマシだと思う。いや、魔物娘の価値観じゃそんなことないと思うけども。
「後輩、一つ聞きたい。もしかして宿題を忘れたことって」
「ないですよ。去年もちゃんと全部やりましたし。去年は部室じゃやってなかったですけど、二年生にもなって学校に慣れましたからね。ここならリラックスできますから」
「なん……だと……?」
「今日の先輩はやけに変顔しますね」
「いや、宿題って忘れたって言いながらすっぽかすものじゃないのか」
「むしろそっちのほうがイレギュラーだと思うんですけど!?」
すごくあっさりした顔で宿題やる方がおかしいみたいなこと言い出しやがったぞ。
「あんまりにも真面目すぎないか、後輩。サボってもいいんだぞ」
「サボりませんて。内申に響くんですから」
「うわ出た真面目ワード。やれやれ、内申の奴隷とはね」
「くそ、勉強できる人が言ってるとすごいムカつくな……」
「勉強の態度が不良なだけだからね、私は。宿題なんて後回しでいいんだよ。夏は一度限り」
「そういえば先輩って魔物娘でしたね……」
サボりを勧める辺りがすごく魔物娘だった。襲
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