*Everlasting*

「ただいまーっ」

 玄関の扉が勢いよく開く音と共に、元気のある少女の声が部屋に響き渡る。ワンルームマンションの短い廊下をぱたぱたと体重の軽い足音が移動し、室内灯で明るいリビング兼寝室の中へ走りこんでくる。時計を横目で確認。午後八時を少し過ぎた辺りだ。
 彼女におかえりと言葉を返す暇もなく、小さな手提げかばんを抱えた彼女は椅子に座っているこちらへと抱きついてきた。身長が足りないために、半ばよじ登るようにして身を乗り出してくるのが微笑ましく愛おしい。同時に香ってくる、彼女の甘い汗の匂いも。

「あのね、あのねっ。いっぱいお菓子貰えたよー!」
「悪戯した?」
「みんなお菓子くれたー。いたずらできなかった」
「そっかそっか、よかったね」
「うんっ、えへへ」

 百円ショップで買った安い魔女帽子と彼女のお気に入りの黒いケープが合わされば、思わずお菓子をあげたくなるに決まってる。なんてったって、今日はハロウィンなんだから。
 彼女は暗赤色の尻尾をくねらせて得意顔のまま、手に持っているかばんを開いて中のものを手に取り、一つ一つの戦利品を机へと並べていく。スーパーで売っているチョコやクッキーが多く、例外なのはかわいくラッピングされた手作りのマフィンが一つ、ビニールラップで包まれていて飾り気がないが見た目はすごく美味しそうなシフォンケーキのピースが一つ。

「こっちのはね、デーモンのはなちゃんのお母さんだった。こっちがリッチのしろちゃんのお母さん」
「ああ、友だちのお母さんかー」
「うん! すっごく美人なんだよー」

 まるで自分のことのように自慢し、これらのお菓子をビニール袋に纏める彼女。夜におやつを食べないという自制がきちんと出来る良い子だ。纏めて引っ張り出せるようにビニール袋に入れるところもお利口さんで可愛らしい。
 お菓子を纏めた袋を家の小さい冷蔵庫に入れ、魔女帽子を脱いでその辺に置き、ケープを脱いでもらう。控えめなキャミソールとショーツだけの姿になった彼女からケープを受け取り、ハンガーにかける。クリーニングに出さないとな。

「お風呂はー?」
「湧いてるよ」
「じゃ、入ろ!」

 くいくいとこちらの服の裾を引っ張ってくる彼女。この仕草をされると、どうにも拒否する気になれない。元より拒否するつもりなんて更々ないとはいえ。
 物入れから換えの下着とパジャマと籠と二人分のバスタオルを出し、浴室前のキッチンに向かう。まだ冬に入る前なので、玄関扉から漏れ入ってくる隙間風の寒さもそこまでじゃない。今年の暖房代はどうなるだろう。
 先に彼女の下着を脱がしてあげて、暖かい浴室内へ入れてやる。下着姿のままは寒いだろうし、風邪を引かれるとこっちがいろいろと困る。

「お先にーっ」
「はいはい。ちゃんと先に身体洗うんだよ」

 それだけ言って、浴室の扉を閉める。こちらも服を脱ぐ前に少しだけ、彼女の汗を一日中吸った女児サイズのキャミソールを鼻まで持っていく。ちょっと鼻呼吸するだけで、肺に桃のような匂いが満ちていく。甘く酸っぱい匂い。アリスというサキュバス種の魔物娘の代謝の匂い。夫と認めた男だけを誘惑し発情させ勃起させるためだけに放たれる、アリスのフェロモン。それに抗えない自分も自分だ。
 だが、これでオナニーするのは無駄だ。痛いほどにズボンを押し上げているモノを気にしないようにしながらキャミソールを籠の中に入れ、自分も服を脱いでいく。二人分の脱いだ服の上にバスタオルを被せ、浴室の扉の傍に籠を下ろす。
 情けなくギンギンに勃起させたまま浴室内に入り、彼女の視線を気にしてない振りをしてシャワーを掴む。

「入ってまーす」
「知ってまーす。お湯、熱くない?」
「うん、ちょうどいいよー。極楽極楽」
「そういうの、どこで覚えてくるの……?」
「んーと、テレビ?」

 旅番組とかだろうか。やたら温泉を紹介する番組多いし。
 シャワーで一通り身体を流したあと、頭と身体を洗う。彼女は真似をして物事を覚えていくので、できるだけ自分の身体を洗う時は丁寧にやる。最も、彼女の視線は股間にしか行ってないみたいだが。

 無意識なんだろう。彼女は性的な知識は全く無いし、一夜寝れば性知識も処女性もリセットされる体質だ。どうあっても彼女の純真さは失われることがない。けれど、同時にサキュバスの一種でもある。男の精液を糧にするし、そのために男を誘惑する。魔物娘らしく、夫と見定めた相手がいればその者のために身体を作り変えていく。
 その上、彼女は成長することがない。一年もあれば少女としての成長は至る所に出てくるはずなのに、いつまでも彼女の身体は出会った時のままだ。おそらくは精神性すらも少女のまま、この先ずっと生きていくのだろう。周りの同世代であるはずの子どもたちも、魔物娘の子どもですらも彼女を
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33