プロローグ
暗い地下室の一室にて白衣を着た若い科学者らしき人物がパイプ椅子に座る囚人服姿の大男の前で何かの薬品であろうカプセルを取り出した。他にこの場に居るのは見張りのワーウルフの看守が2人。それからサキュバスであろう弁護士が1人。そして簡素なテーブルの上には契約書とボールペン、母印用の朱肉が置いてある。
『…………。』
男は背中を丸めてただ黙って怪訝そうな顔を浮かべるだけだ。
『……これはあなたにとっても良い司法取引の筈です。あぁ……ご心配には及びません。決して命の危険はありませんよ。えぇ、お約束いたしますとも。ボクもボクが開発したこの新薬を自ら非検体として既に飲んでいます。結果は良好。しかし、今はもっともっとデータが欲しいのです。そこで今回、あなたにお時間を頂きました。それにこれはあなたのようなゴm……失礼、過ちを犯した人間が世の為人の為に働くチャンスです。それに非検体として協力して頂けるなら、破格の対応をお約束いたします。刑務所の中でも何かと入用でしょう?それに、まだ若い内に外に出られるかもしれませんよ?』
男は正直迷っていた。目の前の胡散臭い事この上無い科学者の言う司法取引は魅力的だった。25年の懲役が10年と少しになるのだ。纏まった金も良い。少なくとも服役中はもちろん、出所後もしばらくは困る事は無いくらいの額が記載されている。
『……何故俺に?』
『それはあなたが開発中の新薬に対する非検体としてのコンディションを全て満たしているからです。』
『……いったいどんな薬を飲むんだ?』
『それは協力して頂くまで教える事ができません。しかしながら、安全は確約いたします。』
科学者は眼鏡ね奥のまるで張り付いたような作り笑顔を絶やさない。
『分かった。……協力する。』
男はふんだくるように乱暴な様子でボールペンを掴むとグチャっと汚く自身の名前を契約書に書き殴った。
『そうですか、そうですか!……では此方を。お水は直ぐにご用意します。』
それを見た科学者は嬉々として準備を始めた。
カタッ……
テーブルの上に置かれたのは一錠のカプセルと水の入ったコップ。
男は妙に緊張してそれを摘むと
ゴクッ……
口の中に放り込んで水で喉の奥に流し込んだ。
『……!?』
ガタン!!
薬の効果は直ぐに表れ始めた。身体が熱を持ち、鼓動が早鐘を打つようになり、意識が朦朧とする。
『……くっ、お、俺に……何を飲ませたんだ!??』
科学者は汗ひとつかかずに手に持ったボードに走り書きを続けている。そしてまるで何の興味もない様な素振りで這いつくばる男を見ると口を開き始めた。
『あなたが飲んだ薬とその開発経緯についての説明しましょう。お約束ですからね。そのまま聞いてて下さい。さて……1999年、魔物娘と言う生命体がゲートの向こうから来たいわゆる『恐怖の大魔王事件』若しくは『ノストラダムスの大予言事件』から図鑑世界とこの西暦世界の関係がスタートしたのは記憶に新しいと思います。21世紀最初の年までにあらゆる国交のルールが定められましたが多くの問題が浮上しました。例えば、我が国日本では女性達が自分達の価値や権利を侵害されるのではと大規模な魔物娘反対運動が起きたり、女性人権保護法案や魔物娘特別課税法案や地方ではいわゆる特別風紀法などが持ち上がりましたね?……しかし実際には現実においてあらゆる分野で彼女達は非常に友好的かつ好意的でした。政治……宗教……文化……エネルギー……食料……移住地……環境問題等のあらゆる問題を我々西暦世界の地球人類は彼女達と手と手を合わせて解決していきました。そう、LGBTの問題もそのひとつです。』
『LGBT?……ま、まさか……』
科学者の言葉を聞いて男の血の気がどんどん引いていく。
『そうです。あなたが飲んだ開発中の新薬は男性を魔物娘に……つまり女性に変える夢の薬です。従来のサキュバスの秘薬では効果にバラつきがあり、女性になりたいと願うゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの願望を100%叶えてはくれなかった。レズビアンには高度なフタナリ薬があるにも関わらず!……しかしこの新薬ならほぼ確実に女性になる事が出来る。かく言うボクも……』
角と翼、尻尾を出した。それを見た男は絶句した。
『魔物娘アルプになった。……ふふふ。自身の欲望のまま婦女暴行を16件起こしているあなたは、倫理観に配慮する必要が無く、事前に行った精神テストの結果も最悪にして最高。遺伝学的にも暴力的、性能力的に強い素養を持った正に女性の敵。非検体に打って付けです。女性になるつもりがサラサラ無く、男性としての人生を謳歌している。生物的にも雄として非常に……非常〜〜〜〜に優秀だ。満点です。だからです。だからこそ、あなたを非検体にし
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