ジャズ・ナイト・バー 魔法のスティック アルプ

ジャズ・ナイト・バー 

やぁ、今日はいい時に来たね。

不思議そうな顔をしているね?……あぁ、そうか。記者さんは"夜は初めて"だったね。

今日は黄金の日。さぁ、もうすぐ魔法が始まる。こっちに。そこの席に着いてくれ。生憎とシートベルトはないけどね?

3……2……1……

どうだい?凄いだろ?……ふふふ♪その顔を見ればボクは満足さ♪

毎週黄金の日の6時に、1夜の魔法がかかってこの店はキャバレーになるんだよ。

ハーレム・ジャズ・タレント・ナイト♪
(一流ジャズ・メン達の夜の宮殿)
エブリ・ゴールデー♪♪
(毎週黄金の日。ポロリもあるよ)

カランカラン……

やぁ、ルゥ。キミはいつも1番乗りだね。

あぁ、彼?ジパング……じゃなかった。向こうの世界のジャパンと言う国から来た記者さんだ。

ねえ、まだリハーサルまで時間があるんだろ?記者さん、ルゥに話を聞いたらどうだい?彼は超一流のジャズ・メンだ。担当はドラム。きっと面白い話が聞けると思う。……ふふっ♪決まりだね?最初のドリンクはサービスするよ。おすすめのカクテルさ。……ルゥ、もちろん君にも。

あぁ、そうだ。これからルゥに取材と言う事はここの飲み代、経費で落ちるんだろ?……そうか。さぁ、ジャンジャン飲んでくれたまえ♪

ふふふ……♪♪




魔法のスティック




煌めくスポットライトの下で、タキシード姿の少年が一心不乱にドラムを叩いている。共に演奏しているのは歴戦のジャズ・メン達。

少年から生み出されているのは、最も人々の心に興奮を煽るジャングル・ビート。

曲はもう終盤。

心を揺さぶるアド・リブ。

スタンドプレーの始まりだ。

哀愁を醸すサクソフォーン。

魂を叫ぶブラス・セクション。

洗練されたウッド・ベースとピアノ。

そして、燃えるようなドラム。

少年にソロが回ってきた時、全ての楽器が演奏を止め、全ての観客が押し黙った。その場にいた全ての者が固唾を飲んで聴き入っていた。

バスドラム、タムタム、スネア・ドラム、シンバル、その全てを超絶技巧のオンパレード、圧倒的なセンスで操る。余りの激しさに遂にスネア・ドラムから火の手が上がる。

そうして、音楽はクライマックス。少年は炎のドラムを叩き切った。

一瞬の沈黙の後、割れんばかりの大喝采。

少年の元に何人ものセクシー美女が雪崩れ込む。

ズレたメガネを戻しながら、首の右横の美女に目を向ける。見つめ合う2人。

そして……。

『オキロネボスケ!!』

『………へ????』

左の美女に目を向けると………

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!』

美人が大口を空けて喉ちんこを激しく振り、ベルのような騒音を撒き散らす。

『オキロネボスケ!!』

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!』 




『う、うわぁぁああああああああああ!!!!』

ガッ……ガシャン!!……チーン…………

ベキッ……

『ぁぁぁああああああ………あっ………』

なぁ、人には運命の日ってのがあるだろ?

そう……その日の朝俺は、ベッドから叫び声を上げて飛び起きたんだ。

あ、そうそう。これは俺の話しだろ?今回はこのまま語り部口調でやらせてもらうよ。苦情?そんなもん作者に言ってくれ。

それで、寝ぼけて手に持っていたドラムスティックで目覚まし時計を叩き割った。2回目の悲鳴はその時の。因みにこれで3台目だった。

……そう。夢だ。さっきのは夢。魔法のドラムスティックで観客を湧かせる素晴らしい夢。ハロー、クソッタレの現実。

ん?魔法のドラムスティックを知らない?魔法のドラムスティックってのはそれでパーカッションを叩けばどんな奴でも踊り出す魔法の道具さ。本当にあるかはわからないお伽話の道具さ。

でも俺はいつかそれを使ってジャズ・バンドで売れっ子になるのがこの時の夢だった。……残念ながら寝ながら握りしめてたのは普通のボロいスティックだったけど。

それはさておき、眠い目を擦って壁に掛けてある時計を見て飛び上ったよ。

8:35分。またギリギリだ。親方にどやされる。いつものように歯を磨きながら作業着に着替えて、もろもろカバンに詰め込んで……あ、勿論スティックは忘れない。休憩中に叩けるだろ?それで、死んだ親父に手を合わせたらトースト咥えてダッシュさ。

ん?女の子とバッタリ??あるわけ無いだろそんなの。あいにくと、ここはロボットマンガでも日常系アニメでもない。チンケなノベルの中だ。

えーっと……そうそう。たしか人魔歴1966年だったか。

その時の俺はまだまだ夢みがちな18歳のチンチクリンの青二才で、住んでる所と言うとニューシャテリア・シティのキングス地区。掃き溜めみたいな霧の国系移民のスラム街。仕事は工事現場で土方の真似
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