王様と花
昔々のお話しです。西の大陸、北の海にグランベル王国と言う小さな国がありました。その国の王様、ピーター王は教皇に聖地を取り戻す聖戦に兵を率いて行くように命令されました。
何年もかかる危険な旅です。主神教の聖地は中つ国と言われる遥か東の砂漠の地にあるのです。王様は仕方なく、お城の大臣達に国を任せ、兵を率いて海を越え、陸路で遥か彼方の聖地を目指します。
何年も旅をして、なんとか聖地に着いた王様は文化の違いに驚きました。西の大陸では、傷を治すには神父を呼んで、香を焚いて神様にお祈りするだけでした。しかし、この砂漠の地では毒を消す液体を使ったり、ワインを布に染み込ませて傷に当てて治すのです。他にも、女の人は何やらローブのような奇妙な服装で目以外を隠していました。男性は友好的でしたが、女性は話しかけただけでも逃げるように去って行きました。
宗教も主神教の古い旧約聖典しか使わずに、新しい新約聖典は聖典では無いとして嫌われていました。主神教では勇者の聖地と呼ばれていたこの地も、彼らは聖アシュマールという聖者の地として大切にしています。ですから、西の大陸では彼らの事を中つ国アシュマール派とか、アシュマール教とかと呼んでいました。
食事も羊や山羊、魚などに香りのする砂のような粉のようなものを振りかけていました。食べたことの無いものばかりです。
ある時、絹服を着た貴族の男が、麻布を着た平民に裁かれていました。西の大陸では考えられない事です。この地で知り合った聖戦軍の騎士に聞くとその騎士は
『此処では、罪人は誰であれ神の名の下に公平に裁かれます。西の地で地に伏した者が、名士になる事もあります。反対に名士だった者が地に伏す者にもなります。』
と答えました。王様達は皆、びっくりしました。
さて、ピーター王は主神教聖戦軍として戦いました。しかし、主神教の将軍達の神の助けに頼った戦い方で軍隊は負け続け、兵士は死に、水も食事も尽きかけてしまいました。おまけに夜には闇夜に紛れてアサシンと呼ばれる兵士達に苦しみました。彼らは皆、曲芸師の様な体術で、ハシシと云う麻薬で皆、正気を失っていて、痛みに怯まずに攻撃してきました。彼らの毒を塗った剣や弓などに聖戦軍は苦しみました。王や将軍の3人に1人は彼らによって殺されました。
やがて何年か戦争が続き、慣れない砂漠での戦争で聖戦軍はボロボロになり、兵士も殆ど失ってしまいました。ピーター王はラビエールと言う国の王様と敵同士でしたが、お互いに尊敬し合い、仲良くなったので、聖戦軍が降伏した折、彼に手助けを頼んで国に帰る事になりました。その時ラビエール王、アフラム陛下から友情の証しとして見た事もない不思議な種をもらいました。彼の話によると、それはそれは美しい赤い花をつけるそうです。
生き残った兵士達も、最初の半分にもなりません。皆、長い長い旅と戦で疲れ果てていました。それから、何年か掛かって来た道を歩いて、海を越え、やっとの事で故郷のグランベル王国に帰ってきました。
しかし、国に戻った帰ってきた王様を大臣達は快く思っていませんでした。自分達が好き勝手出来ないからです。民は重い税金による収奪に苦しんでいました。ピーター王は直ぐに止めさせようとしましたが、大臣達は聖地から逃げ帰った背信者として、主神教法皇に報告して、王様を裁きに掛けました。
裁きの結果、王様は国はずれのクリフサイド離宮というところに軟禁される事になりました。元々、要塞であったそこは昔、ランドル・ファラン王国との戦争のために建てられました。何年も放ったらかしの断崖絶壁に聳える暗く、寒く、虚しいところです。時々、離宮に城からの使者と神父が来るだけで王様は1人ぼっちでした。
王様が聖戦に出掛けてからもう既に10年以上も経っていました。この時の人間の寿命は50程です。ピーター王は30代も後半でした。
聖戦で幾ら祈り、血を流せども、神の救いなど無いと思い知り、主神への信仰は失せ、若さを失い、残っているのは友達のアフラム王から友情の証しとして貰ったあの珍しい花の種だけです。
『此処は虚しいところだから、この花が咲いたら少しは寂しさが無くなるのかもしれない。ラビエール王アフラムよ、貴方の友情に感謝します…』
王様は離宮の庭の真ん中、1番日当たりの良い場所に種を植えました。それから、毎日毎日、晴れの日も、風邪の日も王様は花を育てるために水をあげました。
やがて、種は芽吹き、葉を付けて、城壁に蔦を伸ばし、大きな蕾を付けました。王様は水をあげる時に、友人に話しかけるようにその蕾に話しかけました。
『今日はすこし寒くなったので、もう直ぐ冬が来るかもしれない。寒くはないか?』
王様が話しかけると蕾が頷いたような感じがしました。
『そうか
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