スワローテイルの仕立て屋 下

スワローテイルの仕立て屋 下



ラファエロはカードに書かれた仕立て屋へとスワローテイル地区へと足を運んだ。

仕立て屋職人が集まって出来た街。主に紳士服を仕立てた事からスワローテイル(燕尾服街)と呼ばれた。現在は高級ブティック街になっている。

テイラー・タランテラは知る人ぞ知る名店で、洒落物のラファエロやコンサート・マスターのミケーレもその名を知っている。紳士憧れの店なのだ。

ニューシャテリア・スワローテイル28番地

カードにはそう記されていた。

スワローテイルのメインストリートから外れた入り組んだ旧市街地にあるらしいと言うくらいしか情報が無く、しかもスワローテイルの区画は27しか無い筈だった。噂では "招かれた特別な客" しかその店を見つける事が出来ない謎の店らしい。

カードの裏に書かれた案内を頼りに旧市街を歩いて行く。前世紀初期を彷彿とさせる古い建物の立ち並ぶそこは昼間なのに薄暗く、ラファエロは直ぐに道に迷ってしまった。

もう引き返そうか?そう思った時、カードがするりとラファエロの手を離れ、風も無いのに宙に浮かんで舞うように路地の奥へ奥へと入って行ってしまった。

『なっ!?ま、待ってくれっ!』

ラファエロはとっさに追いかけ、奥へ奥へと向かって行く。

息を切らせて走る。そしてようやくカードを捕まえた。

カードを捕まえる事に意識を追いやられていたラファエロはそこで冷静さを取り戻した。

気付けば随分と奥へ来てしまった。さて、此処は何処か?と思案し、辺りを見渡すと目の前に一際古びた店が現れた。

"テイラー・タランテラ"

簡素な看板。しかし、ショーウィンドウには一目で最高級の生地を最高峰の職人技で仕立てた燕尾服やスーツ、帽子が並んでいた。

こんな美しい服をラファエロは見たことがなかった。

カラン、カラン♪……

西の大陸趣味の扉を開け、中に入るとアンティークの高級家具が並ぶとシックな内装。生地と古い木の匂いがまるで100年も前にタイムスリップしたかのような感覚を彼に覚えさせた。

『……いらっしゃい♪ご機嫌よう♪何かご用かしら?』

ラファエロに少々ハスキーなアルトの歌声が掛けられた。

振り返ると声の主はアラクネの魔物娘。

真っ赤な帽子に黒薔薇の飾り、片眼鏡、胸元と背中に大きなスリットが入った真っ赤なドレスを着こなし、肘まである手袋、8本のクロゴケグモの様に長い脚には真っ赤なハイヒールを履いている。

『こ、こんにちは……本日は』

『あぁ♪待って待って待って待って待って♪♪わかるわぁ♪わかるわよぉ♪』

このアラクネは喋る言葉が全てミュージカルのように歌になるらしい。

『なんたってワタシは仕立ての女王♪マエストロ・タランテッラ♪すーべーて♪お見通し♪♪』

『マエストロ・タランテラ……』

『ノンノンノンノン♪発音はロマーナ語でエレガンテにタランテッラよ♪タランテッッッラ♪♪……ミュージック♪♪♪』


余りのキャラクターの濃さにラファエロが呆気に取られる中、何処からとも無く演奏が始まった。


どう言う訳かスポットライトまで動き回っている。


イッッツ♪ショータイム♪♪

ワタシはそう♪仕立ての女王様〜♪

お望みは何かしら〜♪♪

ワタシに掛かれば〜♪誰もが、そう♪スーパースター♪♪♪誰もが羨むシルエッ〜ト♪♪

セクシーもエレガンテも思いのまま♪

ワタシの腕は超一流♪さぁ始めましょ〜♪♪

ワタシの芸術を〜〜♪♪

トラッド♪

スタンダード♪

モダン♪

そしてフォーマル♪♪

みんな言う事お聞き♪ワタシをそう♪崇めなさ〜い♪全てワタシにお任せ♪ワタシはそう♪仕立て屋の女〜王〜様〜♪♪♪


パチパチパチパチパチパチパチパチ……


余りの存在感と歌声にラファエロは思わず拍手をしてしまった。

『さぁ〜て♪……ラファエロ・カロ・オサニ・アケドさんね?紹介は受けてるわぁ♪♪エレガンテな方とね♪♪』

『あ、ありがとうございます。』

マダム・タランテラは全てを見透かすような真剣な目でラファエロを見た。

『ふふふ♪名指揮者さん♪……ステージ衣装をお望みね?』

『はい。お願い出来ますか?』

『えぇ、もちろん♪……アナタは此処に来れた♪ワタシの店には資格を持つ紳士淑女しかこれないの♪だけど……ワタシの腕は超一流♪お値段も超一流よぉ?』

『……指揮者用の燕尾服、お幾らですか?』

『10000ダラー♪(日本円で訳100万円)』

『なっ!?……た、高い。』

国が作ったオーケストラと言えど、シューシャンク・フィルハーモニーは貧乏楽団だ。当然、ラファエロも貧乏で10000ダラーはとても手が出せない。

『それか、アナタの人生♪』

『……私の人生?』

『そう♪ ワタシの仕立てた燕
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