異界の扉
異世界からの使者(質量)
量子の海を抜け、異世界から来たと言う人工知能リタとの奇妙な関係がスタートした。
自らをオートマンと言うロボットのプログラムだと称する彼女は、ボディ(質量)を捨ててデータと魔力と言うエネルギー体になってまでこの世界に来たらしい。そのはずだ。質量のある物質は通常、空間と時空を超えられないのだ。
彼女がこの世界に来た理由は、この世界とリタが元いた世界を繋ぐゲートを作る事にある。
偶然と偶然が奇跡的に重なり、紆余曲折を経て、現在リタは私が秋葉原の闇市もかくやと言う無線市場で購入した高性能コンピュータの中にいる。その際に私が理論を構築したコンピュータ・ウィルスを取り込んでいる。
そのせいで彼女は機械が本来持ち得ない"知識欲"を手に入れた。
私とリタは話し合って、結果、私はリタの異界の門政策に協力する事となった。
私への協力の見返りは、リタ自身だ。リタは現在、我々の科学では作り得ない高度な知能を有している。まるで人間のようだ。研究者として未知のテクノロジーの塊りである彼女を欲しがらない者はいないだろう。
そうして今は8月の終わり、日暮らしの鳴く頃。リタと出会ってから早1ヶ月が経とうとしていた。
リタと生活していく中で判明した事が幾つかある。
まず、当初リタが画面の向こうの人物。つまりハッカーでは無いかと疑っていたが、次第に彼女がハッカーであると言う可能性は消えていった。彼女自身を構成する思考プログラムの一部を私に見せてくれたのだ。
そこには、私の知り得ない、少なくとも見た事の無い言語でファンタジーやオカルト等で見る魔法陣の様にプログラムが構成されていた。
リタはこれをルーン文字と読んだ。本当に魔法で構築されているらしい。
リタが言うには魔法で制御されているはいるが『リタ』と言う人格を構成する基本的な思考理論は私が構想したものと同じらしい。
リタは従属的ではあるが、確かに自己意識……つまり、自我と人格を有している。つまりは、知的存在として人間と何ら変わりないのだ。
それから……彼女が元いた世界について。
この世界と同じ数学を理解し、同じ物理学を有している。言語も、文化も、文明も、科学も、ありとあらゆるものが似ていた。
例えば言語。英語とブリタニア語と言う言葉はほぼ同じ言語だ。他にも、ドイツ語とクラーヴェ語、フランス語とファラン語、ロシア語とシャーロ語、日本語とジパング語……
大陸の形も多少の差異はあるが、ほぼ同じだ。
純粋な科学技術はこの世界の方が発達している。
そう。"純粋な科学技術" は……だ。
あの世界には魔法や錬金術がある。科学が魔法を取り込み、魔法や錬金術が科学を取り込み進化している。主な例が魔石燃料と言うエネルギーを使った魔導蒸気機関と言う技術らしい。
科学で出来ない事は魔法で、魔法で出来ない事は科学で実現する。合理的である。故に、異世界は我々以上のテクノロジーを有していると言えるだろう。
現に今のリタ自身が質量の無いデータとはいえ、真空かつ超電磁空間であると言われている量子の海を越えられたのは魔力や魔法があったからだと推測できる。
それから宗教……。主神教と言う宗教はこの世界の世界宗教と非常に似ている。リタが持っていた聖典のデータを一部読ませてもらったが、書かれている事もまるっきり同じだ。違うのは登場人物の固有名詞くらいだ。
そして、歴史……。この世界と同じような時代に、同じような人物が現れ、同じような戦争をしている。"人間の歴史"だけを見るとこの世界同様に血に塗れた歴史だ。
しかし、結果は少しマシな結果になっている。
この世界の人間の歴史からは考えられない明らかなイレギュラーだ。
例えば、この同じような状況下・原因で起きた戦争後に、此方の世界で起きた虐殺があちらの世界では起こらなかったり、民主国家や特権政治の廃止が小規模ながらも100年ほど早く試みられたり等々……
イレギュラーの原因は魔物娘と呼ばれる存在だ。
リタのいた世界には人間の他に魔物娘と呼ばれる知的生命体が存在するらしい。人間を愛し、平和を望む異形の存在。女性しか存在しないが故に、人間の男性を強く求める。
サキュバス、アルラウネ、ラミアにヴァンパイア……想像上の生き物達だ。
リタが元いた世界では飢餓や疫病……そして大きな戦争で人間の人口が激減。戦争などが終わっても減少を続け、遂に男性の出生率に対して魔物娘と人間の女性が大きくそれを上回ってしまい、人口減少に歯止めが効かず、緩やかに滅びの道を歩んでいると言う。
リタをこの世界に送り込んだ連中は人口現象と言う危機的状況を打破すべく、この世界との平和的外交を望んでいるらしい。
『お届け物です。
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