異界の扉 異世界への挑戦
アルカナ合衆国 マリッジニア州 異世界外交局ナダウ研究所
件の人魔国際会議から5年後の1995年2月。研究所では慌ただしく作業が進んでいた。
その間を縫うようにして、新しく入って来た技術者であろう若者と彼が入る部署の責任者であろうグレムリンが歩いていた。
『驚いたよ。あの論文を書いた天才がこの前までカルフォーロ工科大学の学生さんとは……。博士号はいつ取得したのかね?えーっと…………』
『ケビンです。ケビン・ロックスミスです。イリャーナ・リャノスカヤ博士。……博士号は2ヶ月前に取りました。』
『イリャーナでいいよ。ケビン博士。言いにくいな。ケビン君でいいかい?』
『はい。大丈夫です。』
『そうか、ありがとう。君もフレッシュマンとはいえ博士だ。遠慮はいらない。ボクと君は対等だよ。さて……ケビン君、君は量子の海を知っているかね?』
『はい……でも、ただ論文で読んだ程度です。量子力学は専門外ですし……。ですが興味はあります。』
『そうかね。コンピューターが恋人の技術屋とは言え、君もナダウに配属された優秀な技術者だ。説明するから頭に入れたまえ。………っと、着いたね。此処が我々の持ち場だ。ようこそナダウ技術開発部へ。』
『は、はい!』
2人が入った部屋には大きな門の様な機械が鎮座していた。
『うわぁ……す、すごい。』
『さて、説明しようか。ケビン君……この世界にあるものは全て量子によって構築されているのだが、量子には不確定性があるんだよ。……例えば……あぁ、いいね。これで説明しよう。ケビン君。そこの机を見たまえ。』
大きな机の上には乱雑に置かれた書類や実験機材や開発途中の機械と共にコーヒーが注がれた沢山の紙コップがこれまた乱雑に置いてあった。
『うわぁ…………。』
イリャーナ博士は適当な紙コップを取ってコーヒーメイカーから新しいコーヒーをいれて飲み始めた。
『ふぅ……いや済まない。変人ばかりで片付けもまともにできないのが集まっているんだ。コーヒー中毒者も多い。4時間事に掃除をしてくれる清掃スタッフがいなければ8時間42分で此処はゴミの山で足の踏み場も無くなるだろうね。あくまでもボクの統計に基づく計算だが……えーっと、大丈夫かね?』
『えーっと……はい、大丈……夫です。』
『君は分かりやすいリアクションを取るのだね。……さて、ケビン君。ちょっと後ろを向いていたまえ。』
ケビンは首を傾げながらイリャーナ博士に従い、後ろを向いた。
ドボドボドボドボ……
『ちょっ!博士何して!?』
ケビンが嫌な予感がして振り向くと、机の上がコーヒー塗れになっていた。博士が盛大にコーヒーを机に淹れたのだ。
『君は本当に分かりやすいリアクションを取るね。素直は良い事だ。……さて、今ボクが持っているこの紙コップがこの世界だとしよう。コーヒーはこの世界の内容物だ。』
そう言うとイリャーナ博士は持っていた紙カップを机の上に置いた。
『?……は、はい。』
『見たまえ。この世界(紙コップ)の周りにはこのように沢山の世界がある。それが無数にあるんだ。今、コーヒーが溢れて机の上で水たまりを作っている。この机の上のコーヒーの水たまりはどの紙コップにも属して無いけど、全ての紙コップから溢れてしまったのかも知れない。あそこで機械をいじくり回しているカワサキ技術顧問のコーヒーかも知れないし、そこのソファーで寝てしまっているジェニファー研究員のコーヒーかもしれない。机の上のコーヒーの水たまりのように、世界と世界の間にはこうした奇妙な次元が存在している事が分かったんだ。私たちはこれを量子の海と呼んでいる。コレが俗に言う多世界理論と言うモノで、理論上はこの量子の海を制御すれば別の世界、異世界に行く事が出来る。』
『……つまり量子の海を制御して、特定の異世界に安定して行き来する為に作っているのがこの大きな……』
『そう。異界の門だよ。』
博士は目の前の大きな門を指差して得意げに笑った。その顔はとても無邪気で、まるで子供のようだ。
『え、えーと……ちょっと待って下さい。話が大き過ぎて……。質問ですが聞いても良いですか?』
『あぁ、構わないよ。何だね?』
そう嬉しそうに話す彼女を見て、ケビンは何となく大学の数学教授を思い出した。自分の得意分野を教えるのが好きで、もし彼女も何かが違っていたら、きっと良い先生になっていたに違いない。
『まず、この門と魔王城や不思議の国やパンデモニウムに移送するゲートや魔法陣とは何が違うんですか?』
『……この世界の内側か外側かの違いだよ。あれらはこの世界の中にある亜空間と呼んだ方が良い。そうだなぁ……イメージをしてくれたまえ。紙コップの中に両サイドを完全に分ける仕切り作っ
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