戦場でチェロを

戦場でチェロを



『マエストロ・カザルスキー。まさかお会い出来るとは思いませんでした。本日はインタビューを受けて頂きありがとうございます。あなたは大戦中も演奏活動をなさっていたと。監視付きではありますが…………早速、大戦中の話をお聞きしたいのですが。』

『はい……今から話す事はあなた方にとっては20年前の事で、僕にとってはついこの前の事です。人魔歴1939年9月1日。チェリストの僕の人生は一変しました。独裁者ルドルフ・アドラー率いるクラーヴェ第三帝国が僕の生まれ育った街、フーランド第二共和国のルシャワを占領したんだ。そして、あの世界大戦……第二次人間大戦が始まりました。』

『あなたはその時、どこにいらしたのですか?』

『その時は弦楽四重奏の演奏旅行中で……運悪くクラーヴェの帝都ベルンに居ました。その日の朝の9時頃でしたか……僕達は社会労働党の秘密警察に拘束されました。拘束されたのは僕がルシャワ出身のユタ人であった事が原因です……。その3日後に"例外的"に解放され、音楽活動を許されました。社会労働党のプロパガンダ……ルドルフ・アドラー総統の為に働く事と引き換えですが。』

『なるほど……その例外的と言うのは?』

『解放された理由はたぶん、僕達のアンサンブルが一流でグループのリーダー、第一ヴァイオリン兼ピアニストのペーター・フォン・シェーンブルグがクラーヴェの名家出身、生粋のゲルマ人だったからでしょう。……少々酒癖は悪かったけど、気の良い青年でした。ハンサムで女性にモテてね?しょっちゅう黄色い声が上がっていました。』

『他の方々は?』

『はい。第二ヴァイオリンのレオポルト・リンデンバウム……オーケストリア系ザクセ人。彼は熊みたいな髭面の大男だけど誰よりも優しい男だ。顔に似合わず花が好きで、貰った花束をよく自分達が泊まるホテルに飾っていた。ヴィオラのアルセーヌ・オスロ……ファラン共和国出身のファランク人。ただ祖母がレーマニア系だそうです。彼は1番年上で1番大人だった。繊細で穏やかで、パイプタバコを蒸しながら詩集を広げ、コーヒーかワインを嗜む姿が印象的だった。みんな愛すべき音楽家で僕の第二の家族だった。……失礼、話がそれましたね。』

『構いませんよ。』

『……それで、僕達は社会労働党の監視下で1943年まで音楽活動をしました。ベルン市内ではもちろん、ランデンブルグ市、リリエンハイム市、ファランクフルト市にルーケン市、シュテットガルド市、ドレス市……それからクラーヴェに併合されたオーケストリア国のビエナ市、占領下の首都国家ルークベルク公国……知られていないかも知れませんが当時、不死者のニコラ公の姿も、あの有名なカレンの灯りも無く、街も殆どもぬけの殻でした。どうやったのかはわかりませんが、恐らくニコラ公は国民の安全を考えて国ごと逃げたのでしょう。その時撮られた写真に写っているのは、みんなクラーヴェ軍や党のお偉いさんです。……え、国際機密?……そうですか。……記者さん、今のはオフレコでお願いします。』

『え、えぇ。わかりました。』

『……そして翌年1940年の7月にはファラン共和国のパリス市で……それから、クラーヴェと同盟国のロマーナ王国……今は共和国でしたね。ヴィレンツェ市、ナポル市、ヴェルニス市にロマーナ市……総統の行く所、何処でも連れて行かれました。』

『なるほど。なぜ、戦時中に沢山の場所で演奏されたのですか?』

『はい。……都合が良かったからです。アンサンブルのメンバーは全員白人で、フーランド人、オーケストリア人、ファラン人をクラーヴェ人が……ゲルマ民族が率いる僕達のグループは社会労働党にとって都合が良かったのです。知っての通り社会労働党や、ロマーナのファスケス党は民族主義を掲げてユタ人や他の有色人種……それから魔物娘を排除しようと考えました。当時僕の知る素晴らしい音楽家や芸術家の友人達が幾人も拘束され、追放され、強制収容所に送られてしまいました。僕の父や母も……。失礼。……例外的に活動を許された……いえ、活動を強要された僕達は主に総統の演説後、党を支持する金持ちや重要人物が出席するパーティーで演奏しました。僕はまだ良いのです。ユタ人ですから"慣れています"。……ビオラのアルセーヌはクラーヴェ軍占領下のパリス市で総統の為に演奏をしなければならなかった…………。彼の心中は察するに余りあります。』

『と言うと?』

『あぁ、記者さんは合衆国人でしたね?……いえ、無理もありません。パリス市は市民の自由の象徴です。帝国に故国を支配され、支配した独裁者の為に働かなければならない。……彼はファラン人のプライドをズタズタに引き裂かれるならまだしも、同じファラン人から裏切り者扱いをされました。事実ですが、アルセーヌはパ
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