第三幕 妖銀一閃

帝都夜行

第三幕 妖銀一閃

米騒動に市川屋のまんま詐欺の金儲け……警官隊上役供の汚職と腐敗。

なにより、田ノ介の事。

色々と調べちゃいるが、上役も、市川屋の件も、なかなか尻尾を出しやがらない。今でも憂き目に涙を流す奴が増えてるだろう。

だから俺は守りたいものを守る為に嫁の桜子と共に百鬼夜行を作る事になった。桜子の話しによると、ぬらりひょん夫になった俺には既に妖の総大将に相応しい妖力と力があるそうだ。

そんな事を話しつつ、何時もより仕事終わりが遅くなった俺を心配して迎えに来てくれた桜子と夜の神畑川を並んで歩いている。

迎えに来てくれるのは有り難いが、近頃"不殺"の辻斬りが出ると物騒な事を聞いている。被害者は妖銀の刃物で皆バッサリやられている。やられた男や妖娘は無様な姿を朝まで晒し、女は男同様にあられもない姿を晒すか毛女郎などの妖娘に変えられてしまっている。

そういう訳で心なしか足早に歩いていると、月明かりが頼りない柳の木の下で人影を見た。

音も無く近づき、鈍い銀色の輝きが迫る。刀だ。

『辻斬りかっ!!!』

ヒュン!!!

ザッ!!

瞬間、俺は桜子を庇い半歩後ろに下がり、剣尖の間合いの外に避ける。

『手前ぇ……あたしの男にいきなり斬りかかるたぁ、良い度胸だよぉ!!覚悟は出来てんだろぅねぇえ!!!』

桜子は右手で俺の腰に刺してある妖銀の軍刀を逆刃に持ち、スラリと抜くと普段の優しい顔はどこえやら。垂れ糸目を見開いて辻斬りに刀の切っ先を向けた。

辻斬りはゆらりとこちらに向き直ると、月明かりの下にその全容を見せた。

女だ……いゃ、妖娘。黒髪を白いボロ布で後ろにいわき、整った綺麗な顔をしているが見開かれた目は人斬りの目だ。ボロボロの白い着物に袴の上に臙脂色の羽織り。肌に血の気は無く、刀を握る手は籠手に見えるがありゃあ骨だ。

『じょ……攘夷……隊…士……覚悟っ!!』

この妖娘……間違い無い。たぶん落武者と言う妖娘だ。なんでも、死に切れなかった侍や剣客がなっちまうらしい。

臙脂の羽織りに白い着物……コイツの口振りから恐らく幕末の将軍派の攘夷討伐隊士の成れの果てだ。

俺の詰襟ランダの制服を見て攘夷隊士か官軍の士官か何かと思ってやがる。帝のお膝元の警官隊隊士だから間違っちゃいないがな。

『桜子……妖銀刀を返せ。俺がやる。』

『お前さま!?』

『コイツは人斬りの"侍"だ。不死者になっても切るのがやめられないんだろうよ。剣士として俺が相手になる。……心配するな。』

桜子はふぅ……とため息ひとつ。俺に軍刀を返してくれた。

『負けるんじゃあ無いよぉ?』

一旦軍刀を鞘に収めて礼をひとつ。辻斬りも一礼を返してくれた。有難い。不死者に成り果ててはいるが、心まで失った訳では無いらしい。

『警官隊隊士、山本 門左衛門。』

『幕府…白刀…隊、…隊……士、柳 薫……。』

『『いざ……』』

静けさの中、冷たい夜風に柳の葉がサラサラとなびき、1枚散って地面に落ちた。

ザッ!!

(速い……っ!!)

ヒュン! バッ!!

ギィィン!!……

恐ろしく速い踏み込みからの袈裟斬りを躱し、抜刀術で斬りかかるも、驚異的な反射で受けられ、鍔迫り合いにもつれ込む。

(弱ったな……力はコイツのが上だ。)

バッ!!

ヒュカッ!!

(離れ側に突き打ちか!!)

頬を突きが掠める。引き際を狙い、相手の刀の峰に軍刀を乗せて滑らせるように払い、そのまま斬りかかるも、ゆらりとかわされてしまう。

カン!ギャリリリリ!

ヒュン!サッ……

バッッ!!

(強い……)

一見すると構えを取らない様にも見えるが、風に揺れる柳の様に構えが変わり、太刀筋が最短最速で飛んで来る。人間の頃から相当な手練れに違いない……

さぁて、どうするか……

息を吐き軍刀を正眼に据える。

瞬間、辻斬りが仕掛けて来た。

『フーーーッ!!!』

バッッ!!

突き技か……迫る剣尖に合わせて軍刀の鎬で受け流す。

ギャリン!……カチャッ……ヒュン!!

剣尖をいなすも違和感が絶えない。

おい?もう片方の手はどこ行った?

スッ……ッッ!!

影脇差し!!突きは囮!

『ちっ!お侍だもんなぁ!二本あるもんなぁ!!』

空いた手で脇差を逆手に抜き斬りかかって来やがった!

パキンッ!!カラン……

咄嗟に片手で鞘を掴み、脇差しを受けるも割れてしまう。くそッ、始末書物だ……っ!!

キン!ガッ!!

ヒュン!ヒュン!

バッッ!!

返す刀を受け、間髪入れずに飛んでくる脇差しの二撃を避け飛び退く。

『フゥーーッ!!フーーーッ!!』

修羅のような目をしやがって……

『お前さん……そんなに俺を斬りたいかい?来いよ……斬ってみな。』

ザッ……!!


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