カレンの灯
むかしむかしの事でした。
西の大陸のルークベルクと言う国の王様は聡明厳格な名君でした。
その国は小さな国で、北には西方主神教国のベルモット王国と魔物と手を組む中立国のオランジュ王国が。西には中立国ではあるのですが、いつ攻めて来るかわからないランドル・ファラン王国が。東には主神教福音主義国のクラーヴェ帝国があります。
魔物の国も主神教の国も中立国もルークベルク王国の領土を欲しがりました。その地を手に入れられれば、西の大陸の覇権を握る上で都合が良いのです。
ベルモット王国が攻めて来れば、比較的仲の良いオランジュ王国と魔物の軍が守ってくれました。反対に魔物の軍が男欲しさに攻めて来れば魔物国の軍事介入を良しとしないファラン王国が守ってくれました。今度はファラン王国が攻めて来れば、ルークベルク王国が領土になると大変困るクラーヴェ帝国とベルモット王国が助けて来れました。
その様な国ですからルークベルク王国には沢山の民族や魔物娘が住んでいます。
西方主神教を信じる人もいます。
主神教福音主義派を信じる人もいます。
主神教ユタ派を信じる人もいます。
主神教アシュマール派を信じる人もいます。
主神を信じない人もいます。
他の神さまを信じる人もいます。
肌の白い人もいます。
肌の黄色い人もいます。
肌の黒い人もいます。
魔物娘もいます。
魔物娘を受け入れている人もいます。
魔物娘を受け入れられない人もいます。
ですからこの国には西方主神教を信じる人の地域、主神教福音主義派の地域、他の神さまを信じる人の地域、魔物娘と魔物娘を受け入れている人達の地域があります。
この様な理由でルークベルク王国の王様は名君でなければとても国を治めてはいけないのです。
しかし、名君はいつまでも居る訳ではありません。善政の後には悪政が起るのは世の常です。
王が病気で死んでしまいました。世継ぎ争いを起こさない為に王様は結婚していませんでしたので、喪が明けて、次の王様は前王の弟でした。
これがいけなかったのです。
新王はイスパール王国などの西方主神教国の言う事を聞き始めて、それ以外を認めようとしませんでした。
税金を引き上げて贅沢をしました。
綺麗な王都にする為に沢山の人を元居た所から追い出しました。
王都への魔物娘の出入りを禁止しました。
また自分の気に入らない大臣や貴族に罰を与えたり王都から追放しました。
新王陛下は典型的な暗君でありました。
ここにカレンと言う娘がいます。大臣の娘でしたが父親は亡くなっていました。新王はカレンを母親と一緒に王宮から追い出されてしまいました。理由はカレンが美しく無いからです。
くしゃくしゃの赤毛の髪、ボヤけた輪郭、悪い魔女の様な曲がった鼻、ソバカスだらけの顔、目は燻んだ緑色で、声はしわがれたカラスの様です。
追い出された母親と娘は酷く貧しい生活をするようになりました。
母親は娘であるカレンに辛く当たりました。使用人の様に扱い、身の周りや生活に必要な仕事は全てカレンにさせました。母親はカレンが家事をしている間に何処かに出かけていました。
食事の時、同じ席につく事もありません。母親はベッドで寝ましたが、カレンは納屋に行きボロ布に包まって寒さに耐えて寝ました。
母親の仕打ちは日毎に酷くなり、遂には暴力を振るうようになりました。そのせいでカレンの鉤鼻はますますひしゃげてしまいました。
その年の冬のある日のこと。カレンは母親に暴力を振るわれていました。
『お母さまごめんなさい!ごめんなさい!』
『お前が美しくないから、お前のせいで私まで追い出されてしまった!お前は要らない娘!!』
『お母さま!やめて!!……ぎゃぁぁあああああああああ!!!!』
暖炉の灰掻き棒で叩きながらそう言うと、母親はあろうことか娘のカレンの顔に塩の入った煮え湯を掛けてしまったのです。カレンは叫びながら床を這いずり回りました。
その事でカレンは顔の半分が焼けて爛れてしまいました。
『醜いお前なぞ産まなければ良かった。』
そう言うと母親は知らない男の人と出て行きました。
それから、カレンはフードとは呼べないようなボロ布で醜い顔を隠して王都に程近い貧民街の路上で物乞いとして暮らしました。
『右や左や旦那様。この憐れな物乞いに施してください。』
『よるな、化け物め!』
『醜い物乞いめ!!』
と石を当てられました。
貧民街の物乞いはあの嫌な母親との貧乏な生活よりももっともっと惨めでした。石を当てられない日は無いのです。突然、男の人に乱暴される事もありました。
肌の白い人も
肌の黄色い人も
肌の黒い人も
お金持ちも
貧乏人も
貴族も
平民も
カレンを見ると皆、蔑みの目
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