一幕 "でもんすとれいしょん"

帝都夜行


散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がするとは良く言ったもので、巷には南蛮文化が溢れている。年号が盟治となって20年余り、今は昔が懐かしい人々も多いだろう。

まだ俺が産まれる少し前に、海の向こうの"あるかな合衆国"から黒船が来航した。鎖国をしていた日の出ずる国へ開国を迫り、少々の混乱と内乱の後に将軍が帝に政権を返し、政事が"ぶるたにあ連合王国"式の民主議会と変わり、年号を盟治とし、首都を帝都と定め、我が国は近代国家、大ジパング帝国と名を改めた。

俺の父上は文明開化前、北町奉行所に勤める廻り方同心だったらしい。

やがて帝政復古派の隊士になった父上は抗争の最中、将軍派から仲間を守って死んだ。母上と産まれたばかりの俺を残して。幸いに道場を遺してくれたので、父の仲間であり門下生だった人達が方々から面倒を見てくれた。母も薙刀で弟子を取り、俺を育ててくれた。

父上の話を母上から聞いた時、あぁ、立派だなぁ……と素直にそう思った。

だから俺は誰かを守る父上に憧れて、大切なものを守れるようになりたくて、警官隊の隊士になった。

『おーい先輩……先輩?先輩!』

『…………ぐぅ……ぐぅ……』

『こらっ!!山本 門左衛門!!!』

『うわっ!!本官はポリスであります!……あれっ?』

『なに寝ぼけているんですか先輩?……見回りですよー。グータラしてるとまたどやされちゃいますよ?』

『あ、すまんすまん。……お前さん、少警部殿の真似うまくなった?声とかそっくり。』

『誰のせいですか?……行きますよー。』

少警部の物真似で私を叩き起こしてくれたのは後輩の田中 一郎だ。私と違ってしっかり者だが、少々軽いところがある。それを言ったら、先輩に言われたくないですよ!……と言われた。

後輩と一緒に警帽を被り、外套を羽織り、妖銀(魔界銀)の軍刀を腰に吊り下げ、街を見回る。

『ここらもすっかり変わったねぇ……』

街には、洋館が建ち並び渡来人や西の大陸や霧の国などの魔物娘で溢れていた。

『もう盟治に入って20年も経ちますからねー。まぁ、時代ですよ、時代。……あの店行きました?"みるくほーる"って言うんですが、良いところですよ?後でこーひーでも飲みに一緒にいきませんか?』

『田中……お前さんはそういうハイカラなのが好きだねぇ。でもやめておくよ。最近不景気だし、金ないし、米も値上がりしたし、可愛い嫁さんもいるし。』

『あれ?山本先輩、結婚してましたー?』

『おいおい何言ってるんだよ、だいたい田中は……って、なんだありゃ?』

見ると、"困窮に候"だの"米を出せ"だの札を書いた人だかりがあった。

『おい、いったいなんの騒ぎだ!?』

すると、まとめ役らしき人が出てきた。……顔見知りだ。

『こりゃ、山本っあん!ご無沙汰で。』

『大工の橋下會の親分じゃあないか、なんなんだいこれは?』

『……見ての通り、"でも"ってやつでさぁ。近頃の米の値段の急騰は大棚、市川屋が米やら何やら何まで買い占めてるって言うんですわ。あっしら貧乏人の大工や職人は干上がっちまう。』

『先輩、先輩。"でも"って何ですか?』

『"でもんすとれぃしょん"って言う外来語の短いやつで、簡単に言うと講義運動の事だ。』

『あっ、それで市川屋に物申すって事ですかー?』

"おうおう!"

"そうだ、そうだ!!"

良く見れば知った顔だらけだ。

大工集は元より、細工職人の加助さんに、仕立て職人の喜助さんと女郎蜘蛛のお絹さん夫妻、酒蔵屋に勤める赤鬼の朱音ちゃん、鍛治職人の伊東じぃさんまで。

『まぁまぁ、そうカッカしなさんな。"でも"だって?ロクな事には成りゃしない。面倒くさいし、やめとけよ。頼むから。』

『山本っあん、こちとら生活かかってんだ!あんたみたいなお役人や公務員ってのとは訳がちがうんでぃ!!』

"おまんま食いぱぐれちまうよー"

"ちくしょーめ!貧乏人馬鹿にしやがって!"

『ねぇ、先輩?これ止めない方が良くないですか?……ほら、憲法でも会合の自由ってあるじゃないですかー。』

『そりゃそうだが……お前なぁ……まぁ、これ止めても無駄か……』

『山本っあん、あんたにゃあ迷惑かけねぇ。行くぞ!』

""おぉーーーー!!!""

すでに迷惑かかってるって言えるはずも無く、皆は市川屋に向かっていった。

『……市川屋って言うと今評判の?』

『はい、なんでも店主の市川松吉はお金儲けの名人で若くて "いんてり" でおまけになかなかの二枚目だともっぱらの噂です。』

『なんだ、ヤな野郎だな。』

『先輩、男の嫉妬は醜いですよー』

交番に戻ると上司の川上少警部殿が恐い顔をして待っていた。緊急招集だ!市川屋に直ぐに行け!馬鹿モン!と怒鳴られ、市川屋に行くと案の
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