永遠の少女
私、オスカー・ヴァン・リートベルク伯爵にはミシェルと言う一人娘がいる。
妻はミシェルが3つの時に還らぬ旅に出てしまった。
伯爵と言えど財政は厳しい。いわゆる貧乏貴族と言うやつだ。
私の家は古くから続く貴族の家系だが、曾祖父の時代に民主化運動が起こり、国は公爵家が直接治める公国から民主国家へと移行し、治めていたオランジュ公国辺境の領地を屋敷を除いて手放した。その後、祖父の時代に生糸商で一財産を築くも、浪費家の父が散産してしまったので、私が名ばかりの爵位を継ぐ頃にはリートベルク家は埃を被った古屋敷と廃れた社交界の名を残してスッカラカンになっていた。
唯一、祖父が遺言で私にボロボロの生糸工場を従業員と共に残してくれていた事と、生前の祖父に世話になったと言うアーサー・ハルミトン男爵の息子を名乗るホーカン・ハルミトンという人物から無担保無利子の援助を受けられた事だ。それで機械を直し、生糸ではなく洋服や生地を作っている。
貧乏だが、とりあえずは普通の大学を出る事が出来た。副科ではあるが大好きな美術も学べた。しかし、流石に食えない芸術家にはなれない。学んだ事を生かす為に庶民向けの服をデザインして工場で作って売っている。
愛娘にはお金で苦労させたくない。将来、良い人を見つけて(少し複雑だが)幸せになってほしい。そんな思いもあり私は必死に働いた。その結果、毎日が忙しく、可愛い盛りの娘には何年も寂しい思いをさせてしまった。
努力の甲斐あって、小金が入るようになり、仕事に少し余裕が出来た頃、気が付けばここ何年もまとまった休みを取っていなかった事に気がついた。
そこで先日、主神教の休暇に大切な愛娘とツェーリ中立国に旅行に出かけた。久々の親子水入らずの旅行だった。
旅行に行こう……。そう言った時の愛娘の笑顔は忘れられない。
ミシェルは今まで、わがままひとつ言わずにこんな父親について来てくれた。5歳を過ぎる頃には母親に似たのか、明るく元気でしっかり者になっていた。
そんな愛娘の寂しさを少しでも楽にできたらと、それから日頃の感謝を込めて、旅行先のツェーリ市にある人形職人マエストロ・ハリー・シュミット氏のドールショップで人形を買ったのが数ヶ月前だ。
マエストロの作る人形達はどれも素晴らしく、素人目ながらまるで生きている様だった。少々値は張ったがミシェルの喜ぶ顔を見て、旅行に行って本当に良かったとそう思った。
オランジュに帰ってからは、また忙しい毎日だ。取引先に頭を下げ、仕事を受け、服や生地を従業員達に作ってもらう。それから商品の確認と出荷の確認と、それが終われば卓上の書類の山と格闘だ。従業員の皆はよく働いてくれる。彼らは私の財産だ。
『旦那さん、働き過ぎではないかい?』
『私はまだまだ若い。ローグ爺さんに負けてられないよ。』
『旦那さん、最近あんたのお祖父さまに似てきたねぇ……ほっほっほ。だけど旦那さん、ミシェルちゃんが心配しとるよ?ほらっ、帰った帰った。』
という具合に毎日、祖父の時代から働いてくれている心配屋さんのローグ爺さんに追い出されるように家路につく。仕事に追われると時間を忘れてしまうのは私の悪い癖だ。
そんな私の帰りを愛娘は毎日毎日待っていてくれている。愛娘の太陽のような笑顔を見れば疲れも吹き飛んだ。
そうして1日の最後にミシェルを寝室に送ったら私も寝室に入る。明日のスケジュールを確認し、着て行くフロックコートと帽子を衣紋掛けに吊るしておく。
『……ミシェルはますます君に似てきたよ。きっと、将来は誰もが見惚れてる美人になる。……おやすみ。』
たった1枚残った"彼女"との写真。まだ赤ん坊のミシェルとの3人で映った大切な写真だ。
"彼女"に話しかけて、私の1日は終わる。
忙しくも幸せな私の日常。
ただ、少し違うのはミシェルが以前よりも良く笑うようになったことか。買い与えた人形をモニカと名付けて可愛がっている。
愛娘の笑顔が増えた事は何より嬉しい。
ミシェルはモニカ人形といつも一緒で、学校やお勉強以外の時間の殆どをモニカ人形とすごしているらしい。
休日に遊んでるミシェルを見たが、モニカ人形が本当に生きているようだった。まるで姉妹のよう。
それと以前と違う事がもう一つ。
度々、愛娘がひどく不安そうな顔をして私のベッドに潜り込んで来たり、早朝に私の顔を見るや否や抱きついて来たり。
そういう時、私は娘を抱きしめてあげる事しか出来ない。落ち着くまで側にいる事で精一杯だ。
毎晩、悲しい夢を見ているようだった。
母親を早くに亡くし、家では1人でいる事が多いからか、その反動かもしれない。
抱きしめた愛娘から薔薇の香りがする……
それから程なくしてどうやら私も毎晩ミシ
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