第3章 目覚めよと呼ぶ声がして
太陽と月の間、橙色の空を3人の魔物が飛んでいる。美しい女性の姿だが、頭からは大きく捻れた角が、腰の付け根からは黒くてしなやかな尻尾が生え、背中の蝙蝠の様な大きな羽を羽ばたかせ、音もなく風を切っていた。
『サラ隊長〜なんでこんな時に斥候なんですかね〜』
1人の隊員が不満タラタラに頬を膨らませて剥れている。
『しょうがないのよ!国境線沿いでドンパチやってるんだから。不可侵条約を結んでいるけどこっちに来ないとは限らないでしょ?文句を言わない!ダラダラ飛ばない!キビキビ働く!』
『うへ〜〜』
『...なんで飽きもせずに戦争を続けるのでしょう?』
もう1人がそう呟いた。
『私たちとは考えが違うんだよ...悲しいけどしょうがないさ...そろそろポイントに近づく。高度を下げるよ!』
『『了解(〜)』』
斥候のサラ隊長が号令をかけると静かに高度を下げ、見つからないように気をつけて進む。
しばらく飛ぶと、彼女達は戦場跡を目にした
『…...』
『なんだ...これ.....』
『うぷっ........』バシャ...ビチャビチャ
『おい!大丈夫か
#8265;しっかりしろ
#8252;』
彼女達が目にしたのは、凄まじい光景だった。充満した血と鉄の灼ける匂い。野に積まれた夥しい数の死体、死体、死体。地面は血糊とモノや人が焦げた跡でさながら赤い絨毯のようになっていた。
1人が激しく嘔吐している
『…人間同士や人間が相手の戦争では稀にこういう事が起こるんだよ。お前達はまだ100年そこそこしか生きていないから、ショッキングだと思うが...これは私から見ても酷いな...』
『こんな事って...
#8252;』
嘔吐している仲間を支えながら、目の当たりにした惨状に対しての怒りを訴えている。
『お前がそう言いたいのも、納得がいかないのも解る。でも、私も聞いた事しか無いが、今の魔王様が代替わりする前の旧時代は私たち魔物も人間と同じ様に魔物同士や人間と戦争してたんだ。強くは言えないんだよ...』
サラ隊長は彼女をなだめると、2人に向かって話し始めた。
『お前達と私の仕事は、コレを私たちの国で起こさない様に、二度と繰り返され無い様に全力を尽くし、与えられた任務を遂行することにある。飛べるか? 』
2人は小さくうなずくと、立ち上がった。
『よし、周辺の様子を確認して少しでも多くの情報を集めよう。通信魔法を使用。魔力周波数は8.0とする。夜間はカメラが使えない。作戦行動は完全に日が沈むまでが勝負だ。』
『『了解
#8252;』』
3人は飛びたった。
通信魔法で思考を伝達し、カメラで戦場跡の様子や打ち捨てられた兵器や道具などを記録していった。
地平線に日が沈む頃、記録が終わり、引き上げようとしたその時
ターン.....
『!?』
(銃声を確認!近くです。)
(私も確認しました。隊長は?)
(確認した。ポイントαに集合。まだ近くに兵士がいるかもしれない。気をつけろ。集合したら地上に降りる。)
((了解....))
彼女達はポイントに集まると周囲を警戒しながら銃声のした方角へと進んでいく。クラーヴェ帝国が陣を敷いていた、辺りを見渡せる開けた場所だ。
(銃声がしたのはこの辺りのはず...隊長!誰か倒れてる!)
(待て!戦闘の可能性がある。索敵魔法使えるか?)
(やってみます!)
目を閉じ、集中すると詠唱を短く唱える。
(...終わりました。念のために熱感知も掛けましたが、周囲に動態反応は無いようです。)
(確かか?)
(はい。ラミア種程の熱感知制度はないですが、確かに。)
(...解った。もし生存者なら救助を最優先!)
3人は倒れている兵士に近づく。
(…まだ子供じゃないか...胸を撃ち抜かれているぞ!)
少年兵の首から識別証のメダルが光る
...?ヨハン・エーデルバ
(隊長、準備出来ました!メディカルセット起動。魔力波スキャンを開始。…隊長!この子まだ生きてます!)
(本当か!?よし、応急処置開始!)
(弾が心臓を逸れてます。貫通してるみたいです。止血開始します!)
彼女は少年兵の胸の傷に手を当てると呪文を唱えた。緑の優しい光が少年兵を包む。
(止血完了しました。ですが血が足りないです。対象は未だに意識不明。出血が多かったのか体温も低い...)
(...現在を持って作戦終了。大急ぎでその子を連れて本部に帰るぞ!)
((了解))
。
。
。
。
『ー 以上が報告になります。』
大きな建物の一室で、斥候の隊長が報告をしている。彼女の前には、報告を聞く軍の上官と一緒に、各機関の責任者がずらっと並んでいる。
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