黒衣の聖者 外伝 くべられた聖女
イグニスの火刑
聖女が見つかった。先日尋問した名も無き教団兵士から聞き出した場所に、聖女と彼女を守護する民衆が魔王軍により捕らえられた。
聖者や聖女はある意味で勇者より厄介だ。勇者は剣を取り主神教の信者や主神教団を守る。武力であるが故に武力で制する事が出来るが、聖者や聖女はそうはいかない。
存在そのものが信仰による奇跡そのものだからだ。
主神教の教えや聖典それそのものは正しく理解をし正しく導けば万人を救う素晴らしいものだ。かつての私もそれに縋った。
しかし信仰はたやすく、意図も簡単に狂信者を作り出す。そしてその狂信が何百の勇者を作り、何千の愚かな民衆に武器を取らせる。気付いた時には幾つもの国の何万の憐れな兵士が血で血を洗う。
『……世が乱れ、異言が廃れ逝くも、世の黄昏れまで残りしもの、すなわち、信仰、希望、愛なり……ハッ!よく言ったものだ。』
それが全ての苦しみや悲しみ、憎悪の原因とも知らずに。
『新約聖典コリテア人への手紙……第1でございますね?旦那様、如何されました?』
『……なんでもない。ただ、アレを見ているとそれを思い出す。聖女とは憐れだな。』
『左様で……しかし、壮観でございますね。』
『いや全く。だがこれで……ククク、死者の国への"借り"は返した……』
ノーマンズランド国立闘技場はさながら地獄の様な光景が広がっている。
『堕ちろ。』
ドガッ!
『うわぁぁぁああ!!!』
ドサっ
『わーい……だんなさままささまぁー♪』
ぞるぞるぞるぞるぞるぞるぞるぞるぞるぞる
『ひぃ!!……よ、寄るな!!寄るなー!!うわぁぁぁぁあああああああああ……………………』
ズリズリズリズリズリ…………
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
拷問ショーを見物している愚かな民衆……もとい、暇人供はまるで三文芝居を見る様なはしゃぎっぷりだ。
魔王軍の兵士達に命じ、闘技場に大きな穴を掘らせ、ゾンビ共をイワシの瓶詰めの様にひしめかせた。そこに聖女と一緒に捕らえられた愚かな西方主神教信者の内、憐れな未婚の男をおよそ300人ほど選び、一人づつ"釜"の中に蹴落としていく。
ご丁寧に"釜"の前には粗末な木の柱が2つ立っていて、その間に吊るされた木の板には文字が書かれている。
"この門をくぐる者は全ての希望を捨てよ"
ククク……ハハッ!アレは彼らにとっては地獄の門も同じだ。叫び声は静かに消えるように死者の群れに飲み込まれていく。さぞかしあの中は楽しい事になっている事だろう。
聖女は祭壇の上にて両手、両足を縛られ、木の柱に縛られてそれを泣きながら見ている。足元には堕落の木と触手大樹の枯れ薪が。
頭には魔界銀製の頭蓋骨粉砕機が取り付けてある。神に祈るたびに魔界銀製の万力が頭蓋骨と脳みそを直接締め上げる。絶頂スレスレの苦痛に似た快楽で死ぬほど苦しいが……死ねないんだなぁこれが。
頭蓋骨粉砕機は手を拡げた修道女の型をしている。聖女の頭を締め上げている万力の先は修道女の手になっている。目を瞑り、穏やかな表情を浮かべた修道女の両手の平には魔法陣が半分ずつ彫られていて万力が全て巻かれた時、修道女の手が合わさり、聖女の頭の中で術式が完成する。
しかし、頭蓋骨粉砕機だが魔界銀製ゆえに頭蓋骨を突き破るが粉砕しない。……信仰粉砕機とでも名付けよう。それがいい。
キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル
『あ"あ"ぁあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!』
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
錆びついた蝶番が軋む様な嫌な音と共に聖女が汚い声で絶叫する。祈ったな?
嬉しい事があっても主神。
悲しい事があっても主神。
辛い事があっても主神。
主神、主神、主神、主神!!
条件反射の様に祈る、マゾ信者ばかりだ。おかげで仕事がはかどってしょうがない。
『……ぐっ……な、なぜこんな残酷な事を!?私を!私一人を焼けば良いでしょう!?』
『聖女よ……それじゃあ意味が無いんだよ。それに、お前の様な者を鞭で嬲っても面白く無い。』
『どうして!!』
『どうしてだと?……では聞くが、西方主神教の為に何人死んだ?西の国に戦火はもとより、中つ国アシュマール諸国への侵攻、ユタ人の弾圧、南の大陸や新大陸での奴隷狩り、原住民の駆逐、異教徒弾圧で何人死んだ?免罪符交付による経済混乱で首を括った農奴が何人いた?先のオランジュ独立戦争では魔王軍介入までの間に主神教福音主義派を何人殺した?』
『なっ!!』
『ではもっと端的かつ具体的に聞こうか。お前は憐れな主神教信者何人に武器を取らせ、何人を戦わせ、何人を殺し合わせ、何人を死に向かわせたんだ?』
『…………。
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