禁書庫の魔法の楽譜
今年は四月の上旬だった主聖祭の休暇もお終いで、皆んな明日には学校の寮に帰ってくる。毎年変わり映えなく、聖 黄金の日のミサが終わると皆んなウキウキしながらバカンスに出かけて、それから1週間は家族と思い思いの休暇だ。
でも僕には家族がいないから、この主聖祭の季節と夏の休暇と、それから冬の主聖降誕祭の季節はひとりぼっちだ。……1ケ月丸々ある夏の休暇は叔父さんの所に行くけど、あいつらは死んだ父さんと母さんの遺産が目的なんだ。だから、帰りたくない。1人の方がマシだ。
今は中等科の2年生、次の九月で3年生だから……あと4年か。高等科卒業まで、あの強欲で豚のように太った叔父さんに保護者の名前を借りなきゃいけない。あと4年……そしたら、あんな奴らとは縁を切って自由の国アルカナに行くんだ。
『おーい!!テオー!!』
なんて寮の中庭のベンチで考えてたら、1番帰ってきてほしかった親友の声が聞こえた。
『やぁ!オリバー!早いね。でも休暇は明日まででしょ?』
『……抜け出してきたよ。フランシスばあちゃんは相変わらず強烈だし、従兄弟のアランの悪戯に付き合わされるし、それでホーカン叔父さんはカンカンだし、もう散々。今日一番のバスに乗って帰って来たよ。』
オリバーは苦笑いしながら話した。でも、その理由はこじつけだ。それは僕が一番良く知ってる。
『……大変だね、ハルミトン家も。』
『まぁね。……なぁ、フロイライン。次の休暇は一緒に来いよ。今度は一夏ギセンの森で過ごすんだ。君がいてくれたら嬉しい。』
オリバー……
『……悪いけど、やめとくよ。家族って僕には良く分からないんだ。それに……オリバーのお父さんやお母さんや妹さんにも悪いだろ?』
『そっか……まぁ、気が向いたら来いよ。』
オリバー……君は良い奴だ。僕が毎回の休暇を1人で過ごしているのを知ると、一緒に過ごさないかと誘ってくれる。でも僕は毎回同じ理由で彼の誘いを断り続けている。
彼はそれ以上は語らずに僕と同じ景気を眺めた。
広い中庭の真ん中には世界から切り取られたように大きな木が蒼々と葉を広げて、地面に柔らかい木漏れ日を落としている。時折、葉や枝が風に吹かれて歌を歌うんだ。
彼……オリバー・ハルミトンと始めて会ったのもこんな良く晴れた午後だった。僕はちょうど1年前の主聖祭の休暇明けに転校して来た。
カッカッ……カカッ……カッ……コト……
『……テオドール。テオドール・ヴァン・シュタイン。……よろしく。』
黒板に書かれた文字の前で僕は短く挨拶をした。
『ミスタ・シュタイン。学校にいる間はここにいる皆んなが家族です。仲良くするように。皆さんも良いですね?……ミスタ・シュタイン、そこにいるミスタ・ジェンキンスの隣の席について。』
『テオドールだっけ?よろしく!』
『うん……』
『さぁ、皆んな教科書を開いて……1789年五月五日、現ランドル・ファラン共和国で労働者、市民が王政に対して起こした…………』
ジェンキンスって子は元気に挨拶してくれたけど、多分僕は酷い顔をしていたと思う。1年前のこの時、僕は両親を事故で亡くしたばかりだからだ。
叔父さん家族に引き取られたけど、彼らの目的はオランジュ系貴族である両親の遺産だ。だから厄介払いをするように僕をツェーリ自由中立国のギムナジウム(男子寮学校)であるここ、聖トマス高等中学校に追いやった。
笑顔なんか出来るはずもなかった。
隣の席のジェンキンスって子とは比較的仲が良かった。でも彼は出会ってすぐに聖トマス・ギムナジウムを去っていった。なんでも、貿易商を営む父親の仕事の都合で北の海の向こうのブリトニアに帰ると聞いた。もう少し長く一緒にいられたら、きっと良い友達になったろうと少し残念に思った事を覚えてる。
彼がブリトニアに帰ってからは、誰とも話すことなく一人で本を読むことが増えた。中庭のベンチがお気に入りの場所だった。
『やーい!フィネラル・テオ!眼鏡のテオ!根暗のテオ!』
当然、僕はいじめっ子たちのターゲットになった。ちなみにフィネラルとはブリトニア語て葬式の意味だ。
『コイツ、何時も本なんか読んじゃって!ボク秀才なんです〜良い子ちゃんなんです〜』
『『『ギャハハハハハハハ!!!』』』
ベッジにスタンにデイブ。悪ガキ3人組に目をつけられて、毎日の様にからかわれていた。3人とも酷いダミ声だ。
『ちょっと貸してみろ!!』
バサッ!
『やめてよ!』
ボカン!ドサッ……
『ぐっ!……』
『よえーー♪』
パラパラ……
『なんだコレ?……??よめねーー!』
『かえして!』
『良い子ちゃん!良い子ちゃん!かえしてほしかったら取ってみろよー』
ゴッ!
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