歌奴隷と氷の女王

歌奴隷と氷の女王


むかしむかしのお話です。

『おかみさん、おかみさん、閂をお掛けなさい。北風に子供が攫われないように。今年の冬は特に厳しいですから。』

粉雪が吹き荒ぶ中を男衆が家々に声をかけて回っています。

冬はとても厳しいのです。特に、西の大陸北部の冬は身も心も凍る様な寒さなのです。



それより少し前の事



雪が降り積もる山道を大きな馬車が走っています。冬の山道を急いでいました。

雪が荒れ、視界が悪くなっても馬車は止まる事は出来ません。なぜらなら、古くからの言い伝えによると、この山々や麓の森は氷の女王が治めている領地だからです。

夏になっても雪が溶けないことから、常冬の山と呼ばれていました。

この山で氷の女王に合うと氷の人形に変えられて、女王が住まう城に飾られると言われているのです。

そうして、馬車は走り続け、やがて道に迷ってしまいました。

すると、御者の耳にシャンシャンと鈴の音が聞こえてきます。そしてその音はすぐ近くで止まりました。

『そこの馬車!こんな雪の酷い日にどうしたのですか?』

雪で良く見えませんが、御者に話しかける声が聞こえます。影から角飾りのカブトを被っているようで、勇ましい女の声です。

『女騎士様とお見受けします。この雪で道に迷ってしまいました。途方に暮れているところです。』

御者は風の音に負けないように大きな声でそう言いました。

『ならば、安全な場所に案内しよう。視界が悪い。なので、私の鈴の音を頼りに来なさい。』

御者は馬車に乗っているご主人にそのことを伝えると、ご主人の許可が降りたので馬手綱を握って女騎士の鈴の音を頼りに馬車を進めました。

しばらく走ると、大きな大きなお城に着きました。不思議な事に、お城の周りは吹雪が穏やかなのです。

視界が良くなったのか周りが見えて来ました。そこは青くて美しくも冷たく、まるで氷で出来ているようです。

『……女騎士様……ここはまるで、氷の女王が住まう氷の城のようですね……』

そう御者が呟くと、前を行く女騎士がこちらに振り向きました。

『そう。ここは女王様が住まう氷の城だ。』

女騎士は半人半馬、毛深いトナカイの様な下半身に美しい女性の上半身をもつホワイトホーンという魔物娘でした。

『どうしたのだ?』

『いえ、何も……』

御者は恐怖で気が気ではありません。言い伝えでは、氷の城に入った者は氷の人形にされてしまうからです。

ご主人にその事を伝えると彼は、『今は従い、隙を見て逃げよう。』と御者に言いました。

御者はご主人の言う通りにしました。

そうしてホワイトホーンの騎士に、馬車から降りて謁見の間に来る様にと言われたので、そのようにしました。

絹服のガウンを付けたご主人と一緒に大きな馬車から降りて来たのは皆子供ばかりで、綺麗な服をつけていましたが、皆目は暗く沈んでいます。

騎士殿に案内されて歩き見る氷の城の中はとても美しく、光り輝いていました。まるで夢の中のようです。

謁見の間には、綺麗な青い絨毯の先には玉座があります。玉座の前には青く透き通るようなベールがかかっていました。

『このベールが女王様の魔力を抑えてくれます。ベールが無ければ身も心も凍りついてしまうでしょう。』

そう騎士殿は話しました。

近衛兵のホワイトホーンや侍従のグラキエス達が忙しなく動いていました。皆、魔法で出来たマントやガウンを上から羽織っています。女王様の力で凍ってしまわないようにするためです。



パパーン!パパパパッパラッパパパパーーン!!


『女王様のおなーーりーーー!!』



トランペットが高らかに鳴り響くと、急に辺りが薄暗くなりました。魔法のベールの向こう側に出て来たのは世にも美しい氷の女王様です。カツン……カツン……と杖をつく音が近づくたびに冷気が溢れているようです。近衛も侍従も御者もご主人もみんな震えています。

カーン!!

氷の玉座の前で立ち止まり、杖をひとつ突くといっそう凍てつくような空気になりました。

『我、氷の女王。名はベルキス……古きゲアラハの冬王、常冬の山の領主、冬の森の覇者、雪原の主、アイスブルグ城 城主にして魔王軍白雪騎士団最高位騎士……』

その場にいる者全てがベールの向こう側にいる女王様にひれ伏しました。

『お前たちの話は聞いている。この吹雪で難儀をしたようだ。氷の女王ベルキスの名において命じ、明日には吹雪を止ませるとしよう。それまでゆっくりしていくといい。……しかし、2、3其の方に聞きたいことがある。よいか?』

なんと威厳に満ちた冷たい声でしょう。感情が感じられず、心まで氷ついてるようです。

『な……なんなりと女王陛下……』

すると女王様は氷の玉座に座り頬杖をつきました。

『何故お前
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