エミリアの夢
ここはどこ?
その時、まばゆいばかりの暖かい光がわたしを包んだの。
誰かがわたしを見ている……
若い男の人…何故だかこの方をわたしは知っている……
丸眼鏡のレンズ越しに見える緑色の優しい瞳……
少し痩せた無精髭の頬……
ゴツゴツとした働き者の手……
すると彼はわたしを見て嬉しそうに微笑んだ
『……綺麗だよ……エミリア……。』
そうか、わたしは……わたしは……
エミリア……
マスターに作ってもらったお人形……
わたしを作ってくれたマスターはハリー・シュミットという若い人形職人さん。彼はツェーリという国の、国と同じ名前の街で代々続く人形職人の家に生まれた。
人形職人としてのマスターの腕は 奇跡の指 と言われるほどだという。みんなマスターのことをマエストロと呼ぶわ。
わたしはそんなマスターのアトリエ兼、自宅のドールショップにいるの。
ショーケースのガラスに映る飾りのない白いワンピースを身につけ、1人掛けの安楽椅子に腰掛けた少女がどうやらわたしらしい。人形としては大きくて人間の少女と同じくらいの大き、亜麻色の髪、グリーンの瞳、白いドレス…一見すると、人間の少女のようだけど手首や指から見える球体関節がわたしを人形であるとつげている。
わたしは意識はあるけど動けないので、いつも目の前に広がる小さな世界を眺めているの。マスターはお客様の相手をしていない時、わたしの横で作業をしている。
決まった時間にくる新聞屋さん
忙しそうに駆け回るパン屋のおじさん
時々通る馬車や蒸気で動く車
すると、
ドールショップのドアがチリンと音を立てて、父親に手を引かれた女の子がおもちゃの王国へと迷い込んだような顔であたりを見渡している。
『……いらっしゃい……』
とマスターがお人形用のお洋服を仕立てながらぶっきらぼうに挨拶をする。女の子は少しびっくりするけど、すぐに興味はお人形さん達に戻っていく。
すると、その女の子はわたしを覗き込むと父親にこの子がほしいとせがんだ。
『ごめんよ……それは売り物じゃないんだ……』
と、マスターがぶっきらぼうに呟いた。女の子は残念そうに首をしゅんと項垂れる。
マスターは一度もわたしを手放そうとしないの。どんなに偉い人に頼まれても、目の前に黄金や宝石が積まれても……
とても大事にしてくれてるよう。何でしょうか?これが嬉しい……という気持ちでしょうか?
そうして、暫くドールショップの中を父親と女の子が見て回ると、ひとつの人形の前で立ち止まった。
『パパ!……この子が良い!!』
女の子の指先には薄桃色のドレスを着た可愛らしい人形があった。女の子よりも少し小さいくらいの大きさで、その子もまるで生きているような、今にも動き出しそうな、そんな感じがする……
『では、これをください。』
と、女の子の父親がマスターに語りかけると、マスターは手際よくお人形を専用のケースに入れて少女に手渡した。
『大きいから……気をつけて。』
『ねぇ、おじ様?この子の名前はなぁに?』
『……まだ無いんだ……その子ためにキミがつけてあげるといい。それがキミがお友達に送る最初のプレゼントだよ……』
『あの子には名前ある?』
と、女の子はわたしを見た。
『あぁ、エミリアと言うんだ。』
『その子、おじ様の大切なお友達なの?』
『そうだよ。』
『じゃあ、たまに会いに来ていい?』
『あぁ……きっとエミリアも喜ぶよ。……その子を大切にするんだよ?』
『うん!』
そうすると父親と女の子は一緒にドールショップを出ていった。
お客様がいない時は本当に静かで、時間がゆっくりと流れるままに過ぎていく。マスターが操るハサミやミシンや、時を告げる時計の針の音だけの静かな世界の片隅でわたしは見守り続けるの。
そうして、わたしの見ている世界が朱色に染まった頃、今日も決まった時間にマスターはドールショップを閉める。
そしてお店を閉め終わると、わたしを抱き上げて地下のアトリエに行くの。
マスターに抱き上げられてるとき、心がすごく暖かくて、ずっとこのままで居たいと思ってしまいます。何でしょうか?……この気持ちが幸せというのでしょうか?……えぇ、きっとそうに違いありません……
地下のアトリエに入るとそこにも私専用の椅子があって、マスターは優しくそこに私を座らせてくれるの。
小さなアトリエの中でマスターは新しいお人形のお顔や体や関節などの部品を作っているの。わたしは全ての人形がマスターの並々ならぬ情熱を注がれて作られているのを知っている。全てが一つ一つ手仕事で、丁寧に丁寧に作られていくその様子は本当に奇跡のようだわ。
合間に簡単に食べ物
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