対談
『間も無く、ノーマンズランドの首都カタリナに入ります。』
船旅が終わり、港に着き、馬車と荷物を降ろし、陸路を行くこと2日。私達はノーマンズランド領内に入った。関所も従僕が持っていた紙切れ一枚で難なく抜け、間も無く首都に到着しようとしている。首都の名前が国主と同じ名前とは、カタリナ殿下は少々悪趣味なようだ。
窓の外を見ると美しい緑の平原が広がり、心なしか太陽が強く感じたのは、生まれ育った西の大陸北部の厳しい気候以外、私は知らないからかも知れない。
程なくして首都カタリナの下馬場に入る。手荷物以外は持っていないので、御者夫婦に金を渡し、そのまま街を歩く事にした。
『旦那様、先ずはカタリナ様と契約をして頂きます。』
『……形だけだろうに、その契約とやらの殆どは完了してる筈だ。』
『申し訳ございません……その様な事はこの従僕には分かり兼ねます……。』
目線をやると従僕は口の端しを吊り上げてニタリと笑っている。まったく、白々しい。左手の薬指に刻まれた呪のおかげで私はこの従僕と離れられない。この従僕に必ずカタリナ殿下の前に連れて行かれる。
加えて性欲が日毎に増し、夜この従僕の身体を求めずにはいられなくなっている。他にも、腰に下げたカタナを触ると酷い嫌悪感を抱く。現に昨日、ハーピー達の盗賊に襲われたが、その様な理由で彼女達を斬ることは出来なかった。それから鏡に映る自分自身を見た時になんだか若返っているような印象を受けたり……いや、確実若返っている。最初は微々たる変化だった。今やどうだろか?街のガラス窓に映る自分の姿は20代後半と言っても差し支えない程だ。
しかし、この主従の呪は絶対らしく従僕は私の命令に決して逆らう事はない。また彼女は私の魔法を……どんな陳腐な魔法も打ち破る事が出来ないようだ。それは少し気分が良い。
成すようにしかならない。不本意ながらそんな事を考えながら街を歩く。
ノーマンズランドの首都カタリナは非常に綺麗な街だ。白を基調としている。魔物国だけあり、多種多様な魔物娘が街を歩いている。街には活気があり、昼間と言うのに花街には人が溢れている。
行き交う人々は男以外は殆どが魔物娘だ。少々露出が多過く目のやり場に困るが、文化の違いだろう。
この国は魔術が発達した国らしく、非常に高度な魔法が溢れている。水の魔方陣を使った噴水や手洗い場、市場の野菜や魚は氷の魔方陣により新鮮に保たれているようだ。道端の屋台ですら火の魔方陣を使い客に料理を提供している。あの羽の生えた魔物娘が止り木にしている柱は街灯と言うものらしく、どうやら光の魔方陣で日中に光を取り込み、夜に光を放出する事で街を照らしているらしい。どれもこれも初めて見るものばかりだ。
ベルモンテ王国や主神教の軍が手も足も出ないのも納得出来る。
大通りを進みその先、国主議会議事堂と書かれた首都の中央に鎮座する巨大な建物に入る。大小様々な美しい石像が置かれた広いロビーの中ではせわしなく局員が仕事に追われて動き回っている。
『国母様にお取り次ぎを。』
そう言って従僕は受付のサキュバスに書類を渡した。サキュバスはこちらにどうぞ、と立ち上がり、私達を奥の部屋へと通した。
『遠路はるばるようこそ。ベンジャミンさん。』
無駄に長い廊下を渡り、たどり着いた大きな部屋に居たのは紅いドレスを纏った白い悪魔だった。
『私はカタリナ、魔王が娘、リリムの1人。』
カウチに横たわる様に座る彼女は肩まである白い髪に、大きな角、白い蝙蝠羽、白い尾わ持ち、身に付けた真紅のドレスは丈がしどけなく片側に大きく開き、首元で結ばれる露出の大きいものであったが、気品を損なわないのは彼女の器であろう。暁を零したような紅い瞳が柔和に笑いかけている。美という単語が意味を成さないほど美しいこの魔王の娘からは一国を治めるにたる、得体の知れない何かと、王族のような高貴さを感じる。
『お会い出来て光栄でございます。カタリナ殿下。』
宮廷式の少々大げさな礼で頭をさげる。
『いえいえ、そう固くならず楽にして下さいな。』
そう言うとカタリナ殿下はソファーに手を向け座るように促した。
『失礼します。』
『どうか頭を下げないで下さい。私とあなたはもう友人よ?贈り物は気に入っていただけたかしら?』
『はい。それはもう……私には過ぎたもので、それに行く宛のない所を拾って頂き、何とお礼を申し上げたら……』
『そう。それは良かった。ベンジャミンさんならきっと私の夢に賛同してくれると。それから……あなたが良いインキュバスになった様で私も嬉しく思います。』
『インキュバス?……それは、どう言う事でしょうか?カタリナ殿下。』
カタリナ殿下は口の端を吊り上げニタリと心の底から嬉しそうに笑う。
『ベ
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