ダウンダウン
ホセとアビゲイルの試合後、記者が新チャンピオンになったホセを取り囲んでいた。
『ワトソン・ポストです!世界ミドル級W.H.and.M.B.C(ワールド・ヒューマンズ・アンド・モンスターズ・ボクシング・カップ) 新チャンプのホセさん、今日の試合の感想は?』
記者の1人がカメラを向け、片手で器用にメモを取っていた。
『なんとか勝てて良かったです。』
別の記者から質問が次々と飛んでくる。
『ニューシャテリア・タイムスです。おめでとうございます。W.H.and.M.B.Cチャンピオンになった感想は?』
『光栄ですね。』
『ジパングから、ヒノモト・マガジンです。新チャンプ、この喜びを伝えたい方はいますか?』
『えーまず、支えてくれたカルロス達、スタッフにありがとう。それから、スラムに居る父と5人の兄弟達、スラムのみんな……ありがとう。そして……天国にいる母に、あなたの息子は強くなりましたと伝えたいです。』
『新チャンプに質問です…………』
ホセがチャンピオンベルトを手に、人々に囲まれてインタビューを受ける中、アビゲイルの姿はどこにもいなかった。特別ルールのマリッジルールもホセが断る以前に対象者が出てこないのでお流れになった。
アビゲイル・マリネリスの控え室
サァァァァァアア…………キュッ……
『だれか……タオルを取ってくれ………』
シャワー室から呼びかけるも、誰も応える者はいない。
『タオルをくれって言ってんだろぉ!!?』
虚しく怒鳴り声の残響が響くだけだった。
濡れた身体で歩き、近くに落ちていたタオルを乱暴に取って身体を拭いて椅子に座り込む。
『よう……誰もいないのか?』
試合前、ここはアビゲイルの取り巻きや記者などでごった返していた。それが今は見る影も無く、静まり返っている。すると、キィ……とドアの音を立てて、薄暗い控え室にアビゲイルのセコンドを務めたアマゾネスのキャサリンが入ってきた。
『アビー……やっと片付けが終わったわ。帰りましょ?』
『他の奴は?』
『……みんな帰ったわ。』
『キャシー、お前は帰んないのか?』
『私はあなたのセコンドだから……』
『見たか?あの試合……』
『えぇ……』
『誰にも負けないと思ってたのに、よりにもよって男に負けちまった……』
『気持ちはわかるわ……また頑張りましょう?だから、ね?』
『お前に私の何がわかるんだよ!!??』
『………………』
『ごめん……今、余裕ねぇんだ私。1人にしてくれ……』
『でも、アビー……』
『1人にしてくれ……』
キャサリンは控え室を後にした。
この試合の勝敗はその後の2人の人生を大きく左右させた。
ホセは、人間初のW.H.and.M.B.Cチャンピオンとして脚光を浴び、一躍時の人に。数々のコマーシャルやTVショーに出演した。
また、ミドル級W.H.and.M.B.Cタイトル防衛戦に勝利。初防衛戦ではヘルハウンドのヘレン・アームストロングを5R 2分32秒で倒し、2度目の防衛戦ではリザードマンのジョディー・マーシャルを6R 1分28秒で倒しその実力を証明。チャンピオンの名を不動のものとした。
ホセの試合は必ずW.H.and.M.B.C特別ルールのマリッジルールが適用されるので、独身魔物娘の挑戦者が殺到した。W.H.and.M.B.Cミドル級はかつてない戦国時代に突入し、結果的にホセの存在そのものがW.H.and.M.B.Cミドル級リーグを活性化させ異例の盛り上がりを見せ、上位ランキング保持者10〜1位までの全てが独身魔物娘で埋め尽くされ、ホセはショートスパンでの防衛戦をこなしていった。連戦連勝を続けている。
一方で、ホセに負けたアビゲイルは栄光から見放されていた。スポンサーはアビゲイルのボクサーとしての価値が彼女から無くなったと判断し、次々と離れていき、彼女を相手にしなくなった。それだけならまだしもプロ復帰戦が決まり、練習を再開した折……
『よぉ、アビゲイル。お前、男に負けたんだって?ククク……』
『元気ないじゃん?キャハハ!』
『…………………』
アビゲイルと同じアマゾネス・スラム地区出身のジムメイト3人が絡んできた。アビゲイルは無視する。
『女が守るべき男に負けるって笑えるよなぁ〜!!だろ?』
『言えてる言えてる!女らしくないね!』
アマゾネスの文化では女尊の文化で男性は守る者であり、男に闘いで負けることはもっとも恥ずべき事の1つである。
『なぁ……てめぇら何が言いてーんだよ?あ?』
すると、その中の1人が
『もう、お前はウチらのボスじゃねーってことだよ。恥かかせやがって。』
『んだとコラァ!?』
『アビー!!……ロードワークの時間よ?行きまし
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