祝福のお祈り、ワインを一口、それからお祝いの料理を2人で食べ、毎年と変わらない誕生日。


しかし、それもエルザの一言で唐突に終わってしまった。


『……ノーマン……大事なお話があるの。』


『はい……お母さま。』

いつになく、真剣なエルザの表情にノーマンは幼いながらも真っ直ぐに全てを受け入れようとしていた。

『……お前の過去について、お前に伝えなくてはならない。』

エルザはノーマンの肩に手を置き、ノーマンは母親の手を握った。

『はい……』

エルザはノーマンに自身が魔界最高裁判所の執行官であること、ノーマンが過去に戦争に際して政治的な大罪を犯したこと、裁判で裁かれエルザのところに来たこと、胎牢の刑のこと、それからエルザから産まれたこと。それらを全て話した。

『…………』

ノーマンは黙り混んで聞いていた。

『僕は……その、ノーマン・ビショップ司教が昔の僕なんですね……?』

『ええ、そうよ……』

ノーマンは今にも涙が零れ落ちそうなのを必死でこらえてエルザを見つめた。

『今の……今の僕は何者ですか?』

『……それは、お前自身がこれから見つけてごらん。でも、私にとってお前は胎を痛めて産んだ私の愛しい坊やなんだよ。』

それを聞いてノーマンはエルザの胸で泣いた。エルザは愛しい坊やをぎゅっと抱きしめ、受けとめた。

『僕にはそれで十分です……僕はあなたの息子……』

エルザは愛しい坊やの背中をさすると頭を撫でもう一度ノーマンに向き合った

『……私の愛しい坊や……もう一つだけ、お前に聞きたいのだけれど……お前の記憶……お前はどうしたい?』

『お母さまは、その僕の記憶の事で悩んで……それは僕の過去の行いで……だから、知らなきゃいけないことです。……だから……』

ノーマンは真剣な眼差しでエルザを真っ直ぐみつめると、エルザは目を閉じノーマンの頭に手をかざした。

柔らかい光がエルザを包む。彼女の額にノーマンと同じく、星型の魔方陣が浮かび上がった。

エルザは大きな蝙蝠羽を広げノーマンを包み込むと彼の額にある星型の魔方陣に自身の額のそれと重ね合わせ、祈ると額を外した。

『私の愛しい坊や、お前の記憶を返そう。』

ノーマンは柔らかい光の中、自分の内側に意識を持って行かれるような、引っ張られるような感覚に任せ、意識を手放した。意識を手放した瞬間、エルザが聖典に出てくる天使に見えた。






ノーマンは意識の中、光の渦の中にいた。

様々な光景が広がって、自分の中に入っていく。

人々の顔、荘厳な教会、様々な出来事

それらの全てが自分の中に入ると、そこは真っ白な世界だった。

“ノーマン……ノーマン……”

誰かがノーマンを呼ぶ声が聞こえてくる。すると、白い衣に身を包んだ茶色い髪と緑目の男がノーマンを呼んでいた。

“あなたは?……僕はあなたを知っている気がします?”

すると、緑目の男はゆっくりと口を開いた。

“私はお前で、お前は私だ。つまり、私は過去のお前自身という事になる。”

“過去の僕。さっきの光の渦はあなたの記憶……”

“そうだ……そして、私は過去の意識の記憶……感情や人格の記憶。”

“あなたは……いや、僕は!!”

現在のノーマンは先ほどの光の渦にある出来事に対して過去の自分に声を荒げた。

“……全て現実に私が起こした事だ……許されない事だ……”

“そんな……”

“過去を変えることは出来ない。しかし、未来を変える事は出来る。過ちを犯した私がお前に対して偉そうなことだか……私はあの悪魔に……エルザに救われた”

“でも、罪を消す事は出来ない。”

“そうだ……現在の私よ。お前と私には決定的な違いがある。”

“お母さまと生きた13年間の僕自身の記憶と…あなたの……過去の僕の行いと結果を知っている。でも、あなたは、現在のノーマンの…つまり僕のお母さまと生きた13年間を知らないって事?”

“そうだ、聡い子よ……私は意識や感情や人格の『記憶』であって、意識や感情や人格そのものではない。それはエルザによって産まれ変わった現在の私であるお前が持っている。”

“……過去の僕。何が言いたいの?”

“つまり、現在の私よ……エルザにより産まれ変わったお前に、過去である私が仕出かした大罪とは関係無いという事だ。”

“…………”

“現在の私よ、お前にはこのまま物理的な記憶だけを引き継いでほしいと思う。私はお前に必要無い。現在のお前の魂を穢してしまうかもしれない。私を取り込んでしまったら、お前は今までの自分ではなくなるだろう……”

“それは駄目だよ……あなたが感じた事、その心や、思いは、それがどんなに辛くても、どんなに汚れていても、あなたの…つまり、僕の大事な宝物で……掛け替えの無いものな
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33