灰被りの王
白い国が赤く燃えていく。
西の大陸と中つ国の間にある小国、ハクア王国は今まさに滅びようとしている。国境の砦は破られ、敵の進行を許してしまった。圧倒的な主神教団軍の数を前に周辺の村々は焼かれ、王都の城壁を数万の軍勢が囲んでいる。
ハクア王国の国王マリアンは若くして先王から王位を継承し、王国をまかされ、民の為に働いてきた。和平を愛し、収奪を許さず、民の幸せを第一に考えていた。
そんなおり、小国ながらも豊かな資源に恵まれたこの国に教団国から
“大人しくハクア王国を聖主神教国領土とするか、さもなくば魔物に手を貸す蛮国として滅ぶか選べ”
という勧告が届いた。
これに対して、国王マリアンは隣国と同盟を組み、国境西の砦にて迎え撃つ準備をしていたが、開戦後に同盟国は次々と教団側へと寝返り、遂には防衛の要である西の砦を落としてしまった。
この国は反魔物国である。国交も古くからの同盟国諸国としか開かれていない閉鎖的な国だ。
西の大陸と中つ国、霧の大陸を結ぶこの地は幾度となく戦火に巻き込まれてきた。先人達は遥か昔に自分たちを守るため山々に囲まれた天然の城壁に難攻不落の城と砦を築いた。
が…今回、同盟国の裏切りにより内側から国門が落ちてしまった。残されたのはこの王都だけだ。教団軍は5万の兵。ハクアの軍は1万にも満たない。加えて多くの戦えない民間人がいる。
このまま教団の介入を許してしまえば、西大陸諸国民とは肌の色が異なるこの国の民は、奴隷の様に扱われるのは明白であった。ハクアの民は中つ国の血と西大陸血が合わさり、浅黒い燻んだ白色をしている。
加えて、鉱山が生む鉱物資源やハクア王国の立地から、他国や中つ国諸国への侵略戦争の足掛かりにしようという教団側の意図が火を見るよりも明らかであった。戦火がさらに戦火を呼ぶことになる。そうなればハクアの国は遅かれ早かれ滅んでしまうだろう。
ハクア王国に入った主神教団軍は攻め滅した村々や町々で略奪を繰り返しながら王都へと進んで行った。そして遂には王都の城壁を取り囲むに至る。
ザッ、ザッ、ザッ、
白旗と教団の旗を掲げた兵士がこちらに近づいてきた。
『私は聖主神教団軍の使者である。国王マリアン・ハクア陛下に御目通りを。』
マリアン王は使者を謁見の間に招き入れた。
『国王マリアン・メレフ・ハクアである。使者殿よ、大義である。どうか楽にしていただきたい。教団側の伝聞を聞こう。』
すると、使者は羊皮紙を取り出して伝聞を読み上げた。
『は!!では、読み上げます。……勇敢に戦った貴国に敬意を表すると共に、恩赦を与えたい。降伏をすれば主神教国となった後も貴国の民を二等市民と認め自治を許そう。王国の名に恥じぬ名誉ある降伏をするか、このまま滅ぶか、この返答に3日の猶予を与える。マリアン王よ、貴国の懸命な判断を祈る。……とのことです。』
使者がそう読み終えると、金属の擦れる激しい音が謁見の間に響いた
『貴様ら!なめ腐りおって!!!』
将軍の1人が剣を抜き使者に突きつけたのだ。
『将軍!!…剣をしまいなさい。』
『っ…!!然し…』
『剣を収めるのだ将軍……』
『失礼しました…』
使者はほっと胸をなでおろすと
『懸命な判断に感謝致します。』
とお辞儀をした。王様は使者に対して
『無礼を許して欲しい…我が方の返答は3日後にする。使者殿よ、貴殿を送ろう。』
語り終えると衛兵を呼び、使者を丁重に送り返した。
3日の猶予を与えられたが、最悪の状態には変わりなく王都には今も教団の万軍の弓が狙いを定めている。この3日で教団軍は補給と略奪をするつもりなのだ。
もし、降伏したとして教団側が約束を守るとは思えない。その保証は何処にもなく、この手の約束事は力のある側がいつでもご破算に出来るのだ。
『奴隷か…滅亡か…』
そんな状況下、王はある言い伝えを思い出した。ハクア王国に伝わるお伽話だ。
古の昔、竜が暴れ回り、この国の王は兵を率いて戦い、ついに東の塔に封印したという話だ。
唯のお伽話ならマリアン王の頭に浮かんで来るはずもない。しかし、この東の塔はハクア王国の東の地に王家の血を引く者しか入れない強力な魔法に護られた''禁断の地''として実在し、国の歴史書には聖歴になる前、アシュマール大帝国に支配されていた1200年前に現在のハクア王国の周辺で竜討伐のための軍が組織されている記載がある。
『文献通りならば、封印された竜がいる…利用出来るやもしれない。』
『あの地は王家の者しか入れない禁断の地でございます。どうかお考えをお改めください。どのような呪いが掛けられているかわかりませぬ!』
『だから行くのだ大臣。このままではハクアは滅ぶ。出来る事全てをやっ
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