下 実験結果。
研究の成果、私の持つ最高の知識と技術をつぎ込んだ最新の義手と義足の実装実験の為に、被験体オリバー・スミスが私、キャサリン・ブラックマンの研究室に連れてこられてきてから1ヶ月がたとうとしていた。その頃になると、右手と喉の怪我は綺麗に治っていた。
当初は重度の精神的外傷…俗に言うトラウマによって彼に触れるだけで大騒ぎになったけど、少しずつ…本当に少しずつ段々と打ち解けていっている。そう思いたい。
日に日に私の中のオリバーの存在が大きくなっていった。そう思うのは彼が、事故とはいえ私の心を封じていた経箱を壊してくれたからだろうか?少なくともオリバーが此処に来なければ、彼と会わなければ、私は何も変わらなかっただろう。彼に会えたことと、彼が生きてることにそっと感謝をした。
オリバーを見ていると時々、彼の中に暗い暗い大きな穴が見える。彼は時々悪夢を見る。もがいて、苦しんで、声にならない声を喉から出す。それを目の当たりにする度に胸が焼かれる様な思いになる。
普段の彼は抜け殻のようだ。自己防衛というのだろうか。重度の記憶障害と解離性障害が併発し、彼に聞いても自分自身が誰なのか、何処から来たのか、そして過去に何をしていたのかがわからないようだった。いつも渇いた笑顔を見せている。
ある日オリバーが私の事を
『キャサリン先生…』
と呼んでくれた時はとても嬉しかった。と同時に少し寂しかった。
オリバーは寝ている時に度々、封じ込めた記憶が悪夢となって、呪いのように彼を蝕んでいた。時々、発作の様にそれが出てくるんだ。
『
#12436;
#12436;…あ''あ''ぁ...撃つな!!…撃つなぁぁぁ!!!』
研究室に戻るとオリバーが魘されていた。今日のは少し酷いようだ。右手で喉や胸を掻きむしっている。
『
#12436;
#12436;…俺は…俺は!!民間人を助けただけだ!!!…ぐっ…ぎっっ!……お前らがっ!!…巻き込まなければ!!!……がぁぁ…やめろ!!…やめろ!!…神よ!…神よ!!…何故俺を助けない!?……うぅ…ぁがっ……殺せ!!!一思いに殺せ!!!!』
『オリバー!』
私は直ぐにオリバーに近づきながら夢見の魔法の呪文を唱える。彼に対して普通に魔法をかけるのでは効果が薄いので、額に手を当てて直接脳に魔力を注ぐ。
その時
ガッ!!
オリバーが右手で私の首を締めた。リッチである私の魔法を振り払い、ギリギリと音が聞こえる…凄い力だ。
ヒューヒューと私の喉から頼りない息の音が漏れ出していた。私はいきなりの事で動揺していて、自分は不死者だから呼吸の必要が無い事を忘れていた。
でも苦しい。
何が?
彼が苦しんでいるのが。
痛い。
何が?
不死者の体は物理的な痛みを感じない。
じゃあ何処が?
心が痛い。
このままでは、本当に壊れてしまうから。彼は強い憎しみと深い絶望と怒りで顔をぐしゃぐしゃにして、その目はとてもとても可哀想な目をしていた。
仕切りに 憎い、憎い、呪われろ と唸っている。オリバーは私しの事を、自分をこんな目に合わせた者だと思っているのだろう。私は首を絞められながらオリバーの顔に手を置き、その顔を撫でる。出来るだけ優しく。愛おしく。
指先に魔力を集めて私の想いを彼に伝える。
‘‘オリバー…大丈夫…大丈夫…。ここには、あなたを傷つけるヒトはいないんだよ…。憎いのなら、幾らでも絞めていいよ…あなたの心が少しでも救われるなら…。私は…もう…とっくの昔に死んでいて……これ以上は、死なないから…死ねないから…。”
すると、私の首を絞めていたオリバーの手がゆっくりと少しずつ緩んできた。と同時に、彼の目が怖れを映していた。
『ごめん…なさい…キャサリン先生…僕は…僕は…!!』
私の首から手を放すと、彼は怯えきっていた。
『大丈夫…。痛くないよ。悪い夢を見たんだね……私は大丈夫。…だから、気にしないで。怖かったね…辛かったんだね…もう大丈夫だよ?…私が付いてるから。』
私は彼の頬につたっている涙を親指で拭う。でも、涙はどんどん流れてきた。
『ごめんなさい…ごめんなさい……』
私の中に彼に対する強力な庇護欲と独占欲が鎌首をもたげている。彼を救いたいと思う心と、彼を独り占めにしたいと思うがんじがらめの考えが両立していた。
『…オリバー…。苦しいのは嫌…?』
彼は震えながら頷いた。
『…なんで辛いの?』
『キャサリン先生を傷つけたから…』
あぁ…もう…この子は…
『私は…あなたが苦しむのが…あなたが涙を流すのが辛いの。だから…もう、悪い夢を見ないようにしようか…?』
彼は首を縦にゆっくりと振った。肯定してくれた。
私は自分の中
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