第4章 ふたりの馴れ初め 1 

「…本日の加工および出荷は以上です。それでは今日も気を付けて作業してください。」

 今日の朝礼も終わり、俺は早速社長のもとに行った。

「おはようございます。社長、例の機械の精度が前日から出ていないのですが…」

「ああ。おはよう。そうか、相変わらず調子悪いな…」

 報告を聞いているのはどう見ても幼い女の子にしか見えない。だが彼女はれっきとした大人の魔物娘であるドワーフの桃里社長だ。
 俺は彼女の経営する金属加工の町工場に勤めているが、従業員数十名のうち社長以下社員のほとんどは魔物かインキュバスだ。無論その中には俺も含まれているのだが。
 報告を聞いていた桃里社長だが、突然ふんふんと鼻を鳴らして可愛らしい笑顔を見せた。

「森宮君。今日も朝からお楽しみだったようだが…相変わらず有妃とは仲良くやっているみたいだな。」

「いや…そんな。すみません。」

 出勤前に本番こそしなかったが、有妃と俺はお互いの唇と舌を散々貪りあったのだ。それを社長に見抜かれてしまい、つい意味もなく謝ってしまった。

「いやいや。仲睦まじくて結構な事だよ。私も家に帰ったら旦那と仲良くするかな。どうせ明日から休みだし。」

 仲良く、という部分を強調して言うと、社長はアハハと笑った。そう。この桃里社長の仲立ちによって有妃と俺は知り合い、そして夫婦になる事が出来たのだ。有妃の様な素晴らしい女性と引合せてくれた社長は、間違いなく恩人と言っていい。
 だが、有妃と知り合った前後は、俺は人魔問わず女性と親密な関係になる事を、正直あまり望んでいた訳では無かったのだ…







 







 それは今日と同じように翌日から休みを控えていたある日の事だった。仕事もようやく終わり、後はタイムカードを押すだけという一番気分がはずむ時間帯だ。そんな時、俺は社長からふいに声を掛けられた。
 
 「森宮君。ちょっといいか?」

 まさかこんな間際になって休日出勤を頼まれるのか…そんなこと今までにあった訳では無いのだが、思わず不安になり表情が強張る。

「安心しろ。明日出てこいなんて事は言わないから。そんな顔しなくていい。」

 俺はほっと胸をなでおろした。そんな姿を見て社長は苦笑する。

「いや、ちょっと聞きたい事があってな…。ええと…。森宮君は彼女とかはいるのか?」

「いやいや…御冗談を。いつも一人で寂しいものですよ。」

「そうか…。それなら魔物娘の事はどう思っている?」

 一体突然何を言い出すのだろう。俺は疑問に思ったが、なにせ明日からお休みである事から少々浮かれており、社長の言葉を深く考える事は無かった。

「魔物娘さんですか?そうですねえ…。とても可愛くて、男の事をずっと愛し続けてくれるんですよね。社長の御亭主が羨ましいですよ。どうか僕の所にも来てほしいものです。」

 魔物娘が経営する会社に勤めるぐらいなので当然魔物には興味はある。俺は当然の様にそう言ってしまった。社長はそんな姿を見て満足したようだ。

「そうかそうか。それならラミア系の種族はどうだ?」

「ラミアさんですか?ロールミーでしたっけ?僕もラミアさんにぐるぐる巻きにされてずっと抱きしめられたいですねえ…。」

 調子に乗って続けた俺に社長はなぜかほっとした様な笑みを見せた。

「うん、わかった。ありがとう。帰り際に悪かったな。」

「いえいえ。とんでもないです。それではお先に失礼します。」

「ああ。お疲れ様。」

 この時はただそれで終わった。少々訝しく思ったものの、休み前日の楽しい気分がそれをすぐに忘れさせた。それからしばらく経ったある日の事だ。ちょうど仕事終わりで帰宅間際だったのは前と同じだ。俺が駐輪場でスクーターに乗って、いざ帰ろうと思ったその時。

「森宮君お疲れ。」
 
「あ、社長。お疲れ様です。」
 
「ええと…。ちょっといいか?」
 
「はい。なんでしょうか」

 社長は何か言いにくそうにうーんと唸るような声を出していた。俺の担当箇所で何かクレームでも来たのか?ミスの無いように注意を払って仕事はしているが、さすがに不安になる。

「すみません。なにかクレームでもありましたか?」

「ああ…いや。そうじゃない。仕事の事じゃないから安心してくれ。」

 俺の心配そうな表情を見た社長がなだめるように言う。

 
「ちょっと森宮君に頼みがあってな…。」
 
「頼みと言いますと?」
 
「今週の土曜日だが、私と付き合ってもらえないか。」
 
「はい…?」

 思わずあっけにとられた声が出てしまった。付き合うってどういう事だ?大体社長にはとても仲の良い旦那さんがいるはずだ。魔物娘の例に漏れず週末はお楽しみではないのか?思わずいけない考えが浮かんでしまい、幼女の様なその姿をまじまじと見
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