一日の終わり。すっかり夜も更けた。最近ではめっきり寒くなってきた。
暖かい部屋の中でうとうとしていたら、外のほうから足音が聞こえてくる。
そう。やっとあいつが返ってきた!
私はビクッと身を震わせ飛び起きると、蛇体を揺らして外に出た。
「お帰りなさい。今日も大変だったわね。 」
ドアを開け、声を上げる私の目の前にいたのはスーツ姿の男のひと。
彼は街灯に照らされながら疲れた表情を見せた。
「ただいまエリカ…… 」
「大丈夫? 最近ずっと帰り遅いじゃないの。」
「うん。ちょっと色々あってね。」
気遣う私に彼は切なそうに微笑んだ。
「う〜。寒っ…… 外にいつまでもいたら凍えそうよ。さ、中に入って。ご飯用意してるから。」
仕事帰りの彼を捕まえて一緒にご飯を食べるのは私の楽しみ。
寒さに震えながらも明るく勧めたけど、彼は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「ごめん…… 会社で弁当食べてきたから。」
「え? またなの。いつも弁当ばかりでは体に悪いわよ。」
「あまり食欲もなくて。本当にごめん……」
すこし叱る様な口調になってしまう私だけど、彼は本当にすまなそうに頭を下げる。
彼、最近はずっと残業続き。きっと疲れ切っているのだろう。
可哀そうでそれ以上何も言えなかった。私はため息をつくと話を変えた。
「わかったわ。じゃあちょっと待っていて。すぐ戻ってくるから! 」
私はキッチンに行くと、こんなこともあろうかと用意してあったカップにティーバッグを入れ、お湯を注いだ。
それに生姜、媚薬成分を抜いた虜の果実の汁とアルラウネの蜜を垂らして、すぐに彼のところに戻る。
「はい。私特製のはちみつジンジャーレモンティー! せめてこれを飲んでいって。」
無論はちみつでもレモンでも無いんだけど、説明がめんどくさいので適当に。
まあ、それらより遥かに栄養があるのでべつにいいのだ。
彼は私が差し出したカップを手に取ると静かに飲み始めた。
やがて飲み終えるとほっとしたような顔を見せた。
「ありがとうエリー。あったまったよ。 」
疲れ切っていた彼の顔が元気を取り戻したようだ。すこしは安心する。
「そう。なら良かったわ。じゃあ……ね。夜更かししちゃダメよ。」
「今日もありがとう。まあ、すぐに寝るつもりだけどね。」
「ええと……ね。」
私はおずおずと蛇体の先端を伸ばすと彼の手に巻き付ける。
「あ……うん。」
彼も照れくさそうだったけど、優しく握り返してくれた。
そのまましばらく見つめあう。彼は寂しそうな顔だけど、私も似たようなものだろう。
残念だけど今日もこれでお別れ。彼は仕事で忙しくて満足に話もできない。
私達は名残惜し気に絡み合った手と蛇体を離した。
そのまま背を向ける彼に、私は知らぬ間に声を上げていた。
「待って!」
彼は驚いたように振り返る。
「いい。何かあったら私に言うのよ。絶対に力になるわ。あなたってすぐやせ我慢するから…… 」
「エリーにはいつも世話になっちゃってるね。大丈夫。ちょっと忙しいだけだから。ほんと俺って頼りないよなあ。」
彼はおどけて見せたけど、それはまるで心配かけまいとしているよう。なんかつらい。
私も泣きそうになるのをこらえながら、無理して笑顔で言った。
「わかったわ。ならいいけど風邪とか引かないでよ。それじゃあ……おやすみなさい。」
「エリーもね。おやすみ。」
お互いに挨拶すると彼は向かいの家に入っていく。
ドアを閉める前に振り向きちょっと手を振ってくれた。
魔王の国とこの国の国交が結ばれて、どれだけの月日が経ったのだろう。
今では私達魔物娘は当たり前のように社会に溶け込んでる。
私も親の代からこの国の住人で、さっきの彼とはずっと一緒に過ごしてきた。
まあいわゆる幼馴染ってやつだけど、私のほうが年上なので一応お姉ちゃんだ。
彼、昔は私の事「エリカお姉ちゃん」って言ってくれたのに、いつの頃からかエリカとかエリーとか呼ばれるようになってしまった。
いつまでもお姉ちゃんって言うのは恥かしかったのかな。
せめてさんづけしろとは思うけど、でもそうやって背伸びしているのも可愛い。
今では幼馴染以上の関係に進んでいると思うし、私にとっては夫も同然だ。
私だけじゃなく、もちろん彼にとっても私は大事な存在のはず。
ううん。「はず」じゃなくて確定ね。これは間違いないから。
でも、そうはいっても肝心な結婚はまだ。残念ながら……
当然というか肉体関係もない。
本当は彼に私の体を巻き付けていつも一緒にいたい。
ずっと抱きしめてキスしあって貪る様にセックスしたい。
一日も早く彼の子供を孕みたい。
私だけを見つめて欲しいし彼だけを見つめていたい。
どんな事をしてでも
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