告白

「うふふっ…… へえ…… なにこれおかしくない? 」

築数十年経つ古ぼけたアパートの一室。楽しげに笑う女の声が響く。
室内は温かな色の明かりで満ちているが、外はすっかり夜の闇に包まれているのだろう。
一日を終え、帰りを急ぐ者たちの賑わいが聞こえてくる。

畳敷きの部屋に置かれている座卓には、男と女が向かい合わせで座っている。
女は座卓に置かれているノートパソコンの前でくつろいでいるが、男のほうは茶碗を手にして黙々とご飯を食べていた。
彼の目の前には色とりどりのおかずが並んでいる。

「わざわざ俺のパソコンでネットしなくてもいいと思うが…… 」

動画サイトで笑動画でも見ているのだろうか。
ネットに夢中になっている女に、男はため息交じりに声をかけた。

「何言ってるのよ。あたしがパソコン持ってないの知ってるでしょ? 」

女は男の方に不愉快そうな表情を向けた。
驚くほど整った顔立ちなのだが、それが余計にきつい印象を与える。

「でもスマホあるだろ? 」

「スマホの画面じゃ小さいからつまらないのっ。 」

「でも俺は飯を食っているんだ。飯を喰うときは誰にも邪魔されず自由で静かに…… 」

「は?あんたの食べているご飯は一体だれが用意したと思っているのよ! 」

なおもぶつぶつ言う男に女は強い声で言った。
女は毎日男の家を訪れて世話を焼く。今も仕事帰りの男の為に夕飯を作ったところだ。

「か、勘違いしないでよねっ!あんたみたいのは放っておくと飢え死にしそうだから可哀そうで見てられないだけよ! 」

と、いつもそんな憎まれ口を叩きながらも、腕によりをかけた料理をごちそうするのだ。
この日も男の好物でありながらも、同時に栄養面でも偏らない見事な献立だった。

「うん。今日も申し分ないよ。 」

真面目な様子でうなずく男に女は呆れた様な声を上げた。

「なにが申し分ないよ。美味しいなら美味しいって言いなさいよ。 」 

「もちろん美味しいさ。 」

「でしょ!気合い入れて作っているんだもの。さ、後片付けもあるんだから早く食べちゃいなさい。でも落ち着いて良く噛んで食べるのよ。急ぐ事は無いから! 」

「その両立はなかなか難しいな…… 」

子供を相手にするような小言を言う女に、男は抗議するように呟いた。
女はそれを聞くと、じとっとした眼差しで見つめる。
男は女の視線を避けるように俯くと、目の前にあるお椀を手に取った。

まるで蛇みたいだ。鰹節のだしが効いた味噌汁を味わいながら男はそう思う。
さすがにそれを口にはしないが、まるで女に絡みつかれるように感じる事も多い。

だが、男にとって女に世話という名の拘束を受ける日々は慣れっこだった。
二人は幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた。
どことなく浮世離れしている男の事を、女はやれやれと言いながらも面倒を見てきた。
男は偏屈と呼ばれても仕方のない性格だったが、一応は社会に適応して生きてこられた。
これも女の献身的なフォローと、熱心なダメだしあっての事だろう。

男を世話する時、女は決まって先ほどの様なむすっとした上目遣いでこう言うのだった。

「ほんとにもう…… いつも助けてあげるてんだからありがたく思いなさいよねっ! 」

一見したところ不機嫌そうだが、その裏にある思いやりを男はよく知っていた。
時には重く感じる女の優しさだが、彼にとっては何よりかけがいの無いものだった。


















互いに言う事も無くしたのだろう、男はご飯を食べ女は動画を見続ける。
二人の間に訪れる沈黙。ときおり女の笑い声が聞こえるだけ。
だが気心の知れた彼らにとって、それもまた心落ち着くひと時だった。

はっきりと告白していなかったが、二人は付き合っているも同然の関係だった。
互いの家の鍵を預け合い、当然の様に泊まりあっていた。
文句を言い合いながらも暇さえあればいつも一緒に過ごしていた。

妙に奥手な二人なので、手を繋いだりハグしたりする以上の肉体関係は無かった。
でも間違いなく互いの事を恋人以上の存在だと思っていると言っていい。

深い仲ゆえだろう。女は男の異変に気が付いた。
今も美味しそうに唐揚げを食べているが、注意を凝らすと妙に落ち着きない。
何かを言い出したそうに、もじもじそわそわしている。

本当にいつまでたっても世話の焼ける子ねえ……
女はそう思いため息をつくと、ノートパソコンを閉じて切り出した。

「ねえ。どうしたのよ?黙ってちゃわからないでしょ。言いたいことがあるなら言いなさい。 」

男はびくっと身を震わせて箸を止める。
女の感の鋭さには随分助けられもし、逆に知られたくない秘密も暴かれてきた。
男は心を読まれてきまり悪そうだ。女を見つめると小さくうなずいた。

「そう…… 仕方な
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