「あ〜。そういえばオーナーさんが明日のイベントよろしく頼むって言ってましたよ〜。」
店の片づけを終え、帰宅間際の私たちにマリ姉が声をかけてきた。
一日の終わり。私たちはすっかり落ち着いた気分でお茶を飲んでいた。
窓の外の灯も優しく街を彩っている様に見える。
「そうだったわね。でもまたなんであんな名前にするのかな。」
翌日はこの店で定期的に行われるイベントがある。
でも、センスにいささか疑問があるオーナーが名前をつけているので、妙におかしいのだ。
呆れたように言う私にエステルもうなずいた。
「うふふっ。『インキュバスさんお披露目パーティー。〜カップル限定DAY〜』なかなか素敵な名前じゃなくて?」
いまにも吹き出しそうなエステルの表情からは、それが明らかに冗談であることがわかる。
「やめてよエステル。口に出して言われるとこっちまで恥ずかしくなるからっ!」
「インキュバスさんお披露目パーティー。カップル限定……」
からかうようなエステルに、私も笑いながら文句を言った。
「もう!なんども言わないでよぉ……。」
エステルの混じりけのない澄んだ声。
その美声で朗読されるように言われると、きいているこっちの背中までむずむずしてくる。
「ああ〜。本当はうちの旦那様も皆さんにお披露目したいんですけどお。以外と恥ずかしがり屋さんなんですよ。」
「あら。マリ姉様の所もそうなの?わたくしの弟くんもなの。そこがまた可愛いのよね。」
「ええ〜。とっても可愛いですう!」
エステルもマリ姉もいつの間にか自分たちの夫自慢を始めている。
まあ、この子達がのろけるのは毎日のこと。複雑な気分だけどそれはそれでいい。
このイベントは、インキュバスになって間もない相方を魔物仲間に紹介する。という建前。
つまりは店の中でエッチな事をしたり、他のカップルがしている所を見たり、
色々楽しみましょう。というもの。
早い話人間たちの言う乱交パーティーのようなものなのかな。正確には乱交じゃないけど。
当然私はみんなに紹介できる彼氏もいない。店員じゃなくても参加するには肩身が狭い。
そう。私は相変わらずの独り身。否応なくその事を実感させられてしまう。
憂鬱になった私だけど、この子たちはかまわず愛する旦那様とのいちゃいちゃ自慢をしてる。
理不尽なのはわかってるけど、少々むっとした私はつい言ってしまう。
「あのねえ、あなた達の旦那様はもうインキュバスになって長いじゃないの。いまさらお披露目してどーすんのよ。」
口をとがらせて文句を言う私だが、二人は相変わらずのんきなものだ。
「えへへっ。可愛い旦那様はいくら自慢しても飽きる事はないんですよ〜。」
「そうよ。みんなに存分に見てもらいたいし、わたくしもみんなが旦那様と幸せそうにしているのを見たいわ。」
エステルもマリ姉もうっとりとしている。
旦那様との素敵な毎日を思い出してでもいるのだろうか。私は拍子抜けしてため息をついた。
「お熱い事ですね。まあ明日は楽しみすぎて遅刻なんて勘弁してよ。私一人じゃどうしようもないんだから……。」
「は〜い!気を付けまーす。」
「そんなに心配しなくても大丈夫よエレン。」
二人は私の心中に気が付かないかのように楽しげに笑った。
「あらあら。随分とお客さま来ているわねえ……。」
「はあ。なんか今日は大変そうですねえ〜。」
それで翌朝。イベントの当日。幸いな事にエステルもマリ姉も遅刻しないで来てくれた。
いつも以上に賑わっている店内を眺めながら、二人はため息をつく。
「オーナーはいないの?まあ、いつものことだけど。」
「はい。商店街の会合でこっちにくるのは遅くなるって言ってましたよ〜。」
問いかける私に、マリ姉はいつになく真面目な表情で答えた。
イベントがあるのにオーナーが居ないのでは少々忙しくなりそう。
私も二人に同意して気合いをいれるようにうなずく。
「そうねえ。面倒な事にならなければいいけど。二人とも今日はお願い。」
「任せて頂戴! 」
「はい〜。頑張りましょう! 」
エステルとマリ姉も明るく言った。
「エリカさんいらっしゃいませ! 今日は旦那様と一緒ですか。」
「エレンちゃんお久しぶり。」
「最近いらっしゃらなかったですけど……。」
「そうそう。じつはね……」
……
……
「あら?リーナさん。その方はもしかして! 」
「ああ。私もようやくな……。」
「おめでとうございます! 」
「いや。そう言われると照れるな……。まあ、ありがとう……」
……
……
店には続々とお客さんがやってきた。エリカさんリーナちゃん等、いつもの常連さんも多い。
どうやらリーナ
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