夕闇迫る中、俺はバイクを走らせる。相変わらず身も凍る寒さだ。そして心身が疼く様に切ない。
でも、あと少しだ…。あと少しで家に着く。そうすれば有妃に抱き締めてもらえる。
蛇体の温もりの中で安らげる。有妃の優しさに溺れることが出来る…。
ひたすらあと少し、あと少しと呟きながら、俺はあの時の事を思いだす………
「有妃ちゃんどうしよう?今から掃除やろうか………。ええと………有妃ちゃん?」
「はいっ!?あ………。私が後でやりますからゆっくりしていてくださいね!」」
「…有妃ちゃん大丈夫?体の具合でも悪いの?」
「いえ。お腹いっぱいでぼ〜っとしていただけですからご心配なく…。」
休日の朝昼兼ねた食事後。有妃を手伝おうと申し出たのだが…どうも様子がおかしい。有妃は台所に立って虚ろな目で蛍光灯を見つめていた。この日に限った事では無い。最近は有妃の様子が妙に気になる。じっと俺の事を見つめ続けたり…。気が付いた俺が視線を向けると慌てて俯いたり…。上の空で何度もため息を着いたり…。明らかに普段の様子と違うのだ。
「ほんとに大丈夫?つらいなら言ってね。」
「はい!もちろん大丈夫ですよ〜。心配かけちゃってごめんなさいね…。」
慌てて駆け寄る俺に有妃は明らかな作り笑いを浮かべた。気持ちを押し殺したような切ない笑顔を見て、たまらず声をかけてしまう。
「ねえ有妃ちゃん。君ほどじゃないけど俺だって有妃ちゃんの事はわかるって言ったよね…。そんな我慢はしないでほしいな。」
有妃は目を潤ませると俺をそっと抱きしめる。蛇体で全身を包みこむといつもの様に何度も頭を撫でてくれる。温かさと心地よさに俺は身を委ねてしまった。
「ありがとうございます。本当にご心配なく。その気持ちだけで十分なのですよ…。」
どこか安心した様な有妃の声を俺はただ聞いていた。
ふみ姉との再会からしばらくは平穏に過ぎた。有妃ともこれ以上は無いほど仲良くしている。というよりもこれは仲が良いという以上のものだ。以前にも増して有妃に甘えるようになってきており、ますます依存しているのが自分でもわかる。食事や入浴の時も有妃に世話してもらう事が多いし、夜はいつも抱きしめて寝かしつけてもらう。有妃が傍にいてくれないと落ち着かない。有妃の蛇体に包まれないと安心して寝ることも出来ない。
うん…。我ながらどんどんダメになってきている…。でも、情けなく甘える俺を見て、有妃は目を輝かせて喜んでくれるのだ。別にこのまま一生甘えて頼りきりでも、有妃は喜んで俺を支えてくれる。そんな妙な信頼も生まれてきた。有妃は口には出さないが、駄目な俺のほうがいいと言ってくれている様だ。正直複雑なのだが、最近ではそんな有妃に思う存分溺れてしまおうとすら思う。
今後の俺の辿る道は大体想像がつく。有妃の魔力…白蛇の炎を注ぎ込まれて、身も心も有妃のものになるのだろう。お互いに依存し合って、甘い快楽と安らぎの日々を送る事になるのだろう。全く不安が無いと言えば嘘になるが、有妃が俺に酷い事をするはずもない。有妃と心からつながりあえる日々を思えば、今から期待に胸を膨らませてしまう。そして、その日はいつか必ず訪れるはずだ。
有妃はまだ抑えてくれている。だが、魔物娘は番になった男への思いが際限なく膨らむともいう。何が切っ掛けで気が変わるかわからない。でも、そうなったときは従容として有妃を受け入れよう。白蛇の夫にふさわしく笑顔で有妃を抱きしめよう…。怯えたり怒ったりして有妃を悲しませる事だけはするまい…。俺は心に誓う。
俺も大切な有妃が悩んでつらい思いをするのは嫌だ。だからしたい事をしてくれていいと何度も言っている。最近の有妃の様子を思えば、その日は思いのほか早く訪れそうだ。まあ実際にその場に遭遇すれば、慌ててうろたえてしまうのだろうな…。魔力を入れられるにしても浮気を疑われて無理やりなんてのは嫌だし…。お互いに納得し合ってその日を迎えたいものだが…。
「佑人さ〜ん!一緒にお買いもの行きませんか?」
取り留めもない思いにふけっていたが、その時有妃の呼び声が響く。もう、やめよう…。明日の事は明日の自分が悩めばいい。今は有妃と一緒の時間を楽しもう…。
「ちょっと支度するから待ってて。」
俺は有妃に声をかけると出かける準備を始めた。
「それじゃあそろそろお休みしますか…。」
夕食と風呂を済ませ、まったりとした時間を過ごしていると、いつの間にか寝る時間だ。睡眠を促す有妃に俺は甘えてしまう。
「だるくて動きたくないよ有妃ちゃん…。」
「もうっ。本当に甘えんぼさんなんだから。」
苦笑した有妃は俺を抱きかかえるようにしてベッドに運
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