「やっぱりこの姿をゆうくんに見せるんじゃ無かったかな………」
ふみ姉はそう言って物寂しい笑みを見せた。どこか泣いているようにも見える眼差しが俺を正気に戻す。
「ごめん!違うんだふみ姉。」
慌てて言い訳するが、ふみ姉は穏やかにかぶりを振った。
「ううん。ゆうくんが戸惑うのはよく分かるよ。わたし自身が自分の変化に一番驚いているから…。」
一つため息を着いたふみ姉は言葉を続ける。
「今はね。旦那さんともすっかり仲良くなれて。わたしがぎゅって抱きしめてあげると、ふみちゃん大好き…って言って優しく笑ってくれるの。それがすごく嬉しくて。わたしも大喜びで色々お世話してあげるんだよ。やっとうちの人と心から繋がって一つになれた…。これから先もずっとこの幸せが続くんだ…。そう思うとすごく興奮しちゃって、全然眠れなくなるぐらい愉しい。」
取り留めも無く話していたふみ姉だが、ここで不意に俯いた。
「でもね…。本当に彼をわたしのものに、無理やりこんな事しちゃって良かったのかな…。」
「ふみ姉…。」
若干の後悔と苦悩を滲ませる眼差し。それは魔物になれた事の喜びを露わにしていたふみ姉では無かった。俺の知っている繊細で心優しい姉の姿に胸が痛くなる。
「魔物にしてくれたお姉さんが言っていたんだけれど…。お姉さんはあまり魔力が強くないんだって。わたしが心まで完全に魔物になりきるには少し時間がかかるそうなの。その間は時々人としての気持ちが強くなる事があるらしいんだよね。」
言葉を続ける姉に俺と有妃は無言でうなずく。
「そんなときは旦那さんに無性に申し訳なくなってしまうの。あの人の事を思うなら、許してあげるべきではなかったのか。私のもとに縛り付けないで、自由にしておいてあげるべきではなかったのかな、って色々考えちゃって…。
でも、そう思う時間も日を経るごとに短くなっていっているんだけれどね。最近ではどうしてもっと早く魔物になって旦那さんを迎えに行かなかったんだろう。って思う事ばかりだもの。わたしの中の人間がすっかり消えた時。その時がわたしにとって完全にしあわせになれる時なのだろうけれど…。」
ふみ姉はもう一度ため息を着いた。
「だからゆうくんにもわたしの姿を見せるのは複雑な思いだったの。ごめんね…。本当はすぐに会いに行きたかったんだけれど、わたしの中で気持ちが揺れちゃって。魔物カフェでゆうくんと有妃さんの姿を見るたびにどうしようかずっと迷っちゃって。
もっと魔物として一人前になった時に会いに来ればよかったかな…。ゆうくんにとって優しいお姉ちゃんのままでいたかったかな…。なんか急に自分があさましくなってきちゃった…。」
人外を象徴するかのような、姉の青白い繊細な手。ふみ姉は己の手を見つめて遣り切れない表情をする。
「ふみ姉まってよ!そんなこと言わないでよ!どんな姿になってもふみ姉はふみ姉だよ。確かに驚いちゃったけど…。ふみ姉に会えて、幸せになってくれて嬉しく無い訳無いじゃないか………。」
今にも泣きそうな笑顔のふみ姉を俺は何度も慰める。馬鹿。余計な事を思ったばかりに傷つけてしまったじゃないか……。ここに至るまで実際に悩み苦しんできたのはふみ姉なのだ。俺がそれを理解しようとしないでどうするんだ。
有妃は俺たち二人の様子を黙って見ていたが、不意にたしなめるような言葉を掛けてきた。
「お義姉さん…。それではお義姉さんは後悔していらっしゃるのですか?人間に戻って旦那さんを自由にしてさしあげたいのですか?」
思わぬ事を言われたふみ姉は必死に首を横に振る。
「嫌です!せっかく一緒になれたのに…。もう二度とあんな思いはしたくない…。」
有妃は柔らかな笑みを浮かべてうなずいた。
「もちろんそうでしょうとも。私たちにとって愛する方と永遠に結ばれるのは、なによりの願いです。お義姉さんもそうである事は良く分かりますよ。」
「有妃さん…。」
「もしお義姉さんが旦那さんを諦めていたならば、どうなっていたでしょう?お義姉さんの心は鬱々と晴れず、旦那さんも人の道を踏み外す事になっていたかもしれません。
それをお義姉さんはわが身を呈して引き戻して、そして護って差し上げたのですよ。間違いありません。お義姉さんはご自身と旦那さんを救ったのです。」
優しく教え諭す様な有妃の言葉に、俺とふみ姉はいつしか聞き入っていた。
「もっとも私達には『魔の君子は人の小人。人の君子は魔の小人』っていうことわざがあるのですが…。それだけ人と魔物では価値観が異なっているという事なんですよね。
魔物化したばかりのお義姉さんが悩むのも良く分かります。なにせ魔物にとっては一日中セックスし続けるのが模範的行為。大好
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