窓の外では北寄りの風が吹いている。弱い日差しの中、揺れる木々が寒々しい。
「ああ…佑人さん温かいですぅ〜。」
「そういう有妃ちゃんこそ。すごくぽかぽかで気持ちいいよ…。」
だが俺達がいるのは部屋の中。そこは春本番のような暖かさだ。
日曜日の午後のひと時。俺と有妃はいつも通りいちゃいちゃして、まどろむ様な心地よさに蕩けている。
有妃は寒いのが大の苦手だ。部屋の中は暖房をきかせており、なおかつ一緒に抱き合って温めあっている。
「ん…すぅ〜。有妃ちゃんいい匂い…。」
「仕方ないですねぇ。佑人さんったらまたくんくんして…。」
俺は有妃の胸に顔を押し付けると、濃厚に漂う甘酸っぱい匂いを存分に吸い込む。有妃は苦笑すると蛇体の拘束を強めて抱きしめてくれた。
この愛する白蛇の妻に…魔力を注ぎ込まれたのは何年前になるだろう。今ではもうすっかりと彼女の支配と愛情に溺れきっている。
以前は露骨に匂いを嗅ぐような事は抵抗があった。だが、惜しみなく与え続けられる甘い安らぎに、いつしか遠慮や羞恥心を感じる事も無くなっていた。俺はただ有妃の温かさを感じていればいい…。自分の心のままにいればいい…。
「明日からまた仕事か…嫌だな…。」
そんな思いが自然と口を突いて出てきてしまう。先ほど述べた通り今は日曜日の午後。明日からの仕事を控えて気持ちが重くなる時間だ。
労働環境にも対人関係にも、全くと言っていいほど問題は無い。だがそれでも憂鬱になってしまうのは贅沢なのだろうか。
「あ〜あ…。有妃ちゃんとこのままでいたいなあ。ずっとギュッとされていたいよ…。」
さらに言葉を続ける俺を有妃は優しく見つめる。
「まあっ!嬉しいお言葉です。いいんですよ〜。佑人さんの気の済むまでこのままでいましょうね!」
「本当に?」
「もちろんです!明日からの事は全部私にお任せくださいね!桃里さんには話は付けますから…。」
「ありがとう。それじゃあ有妃ちゃんに監禁される生活がいま始まった訳だね。なんか期待しちゃうなあ…。」
「うふふふっ…。覚悟してくださいねぇ。佑人さんっ………って。やめて下さいよ!わたしはそんな事はしませんよ。でも、一月ぐらいなら…佑人さんとずっと二人だけの生活はしてみたいかも…。」
有妃は冗談めかして話にのってくれる。たわいないけれど、最愛の人との穏やかな時間。心落ち着くひと時。
優しく抱きしめる有妃の手。心地よく包み込む蛇体。果物のような、どことなく切なく甘い匂い。
当然のように気持ちを抑えきれなくなる。俺は何もためらうことなく、豊かな双丘の谷間に顔を埋める。有妃はすぐにあやす様に頭を撫でてくれる。
それがまた蕩ける様に心地よくて…たまらずおねだりしてしまった。
「有妃ちゃん…。もっとなでなでして欲しいなあ…。」
「まあ…甘えんぼさんっ!でもこんな恥ずかしい事を、平気でお願いしてくれるようになって嬉しいですよ。」
「もう。有妃ちゃんったら…。」
「いいんですよ。私は大喜びしているんですから…。佑人さんの変態でやらしい所、もっと見せて下さい。何も遠慮しないで下さいね…。」
有妃は若干嘲る様な調子でからかう。だがすぐに穏やかな口調でフォローすると、何度も頭を愛撫してくれる。いつものちょっぴりSだけど、心優しい俺の嫁さん。
彼女は白く暖かい蛇体で、ますますしっかりと俺を包み込む。この温かさがあればもう何もいらない。心が蕩け何も考えられなくなる…。
その時だ。有妃は不意に拘束を解いて俺を見つめてきた。労わるような眼差し。
「佑人さんとこうしていたいのはやまやまですけれど…。明日がありますから…。そろそろご飯の支度しますね。」
「そうだね…。」
もう夕刻も近い。温もりの時間もとりあえず終わり。明日の仕事に備えないといけない。
とりあえずご飯を食べて風呂に入って、そのあと有妃と抱き合って寝るまでいちゃいちゃしよう…。
知り合いの白蛇夫婦みたいに、有妃の愛情に包まれてずっと過ごしたいのは当然だ。だが、正直いえば今の生活も続けたい。有妃に何から何まで世話になるのは、俺の良心が許さない思いがあるのは否定できない。
俺は葛藤を抑えきれずにため息を着く。すると有妃は励ます様に、はいっ!と目の前に綺麗な小箱を出した。
「そんな悲しそうなお顔はなさらないで下さい…。これを食べて元気出して下さいねっ!」
「これは…。」
「はい!今日はバレンタインですよ〜。佑人さん甘いものは大好きじゃないですか…。愛情たっぷり込めて作りましたので…。」
「ああ…。」
そう。今日はバレンタイン。丁寧に包装されたチョコレートの箱を感慨深く見つめる。こんな俺だ。長
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