「ええと。どこから話せばいいかな…。」
考えを整理しているのだろう。ふみ姉は呟くと小首を傾げる。俺と有妃はそんな姉を無言で見守った。
「あ、そうそう…。ゆうくん有妃さんと一緒になる、ってメール送ってくれたでしょ?」
「うん。」
「大体そのあたりからかな。色々動き始めたのは………。あっ。」
確認するかのようにしゃべっていた姉だったが、ふいに後悔する様な眼差しを俺に向けてきた。
「ゆうくんごめんね…。結婚のお祝いしてあげられなかったね…。ほんと、お姉ちゃん失格だよ…。」
「待ってよ。そんな事はいいんだよ…。俺こそふみ姉が大変なのに何も出来なかった…。」
あの時はふみ姉にとってもつらい時だったのだ。俺は手助けする事すら出来なかった…。それなのに気遣ってくれる姉に、俺の方こそ申し訳ない気持ちになる。
「ううん。お姉ちゃんは大丈夫だから!それで…遅くなっちゃったけど、結婚おめでとうっ!」
「……ありがとう。ふみ姉ちゃん。」
ふみ姉は華やかに笑って祝福してくれた。その笑顔を見ていると、俺の心の中の苦いものが洗い流されていく。
「本当によかったよぉ…。ゆうくん。」
感極まったかのような姉は、腕を広げて俺を抱きしめようとしてきた。恥ずかしい話だが…実家に姉がいた頃はよく抱きしめてくれたものだ。格好悪いからやめて、と言いながらも本当はぎゅっとされるのが心地良かった。一瞬姉の体の温かさを期待して身を委ねそうになる。
「えっ!? あっ!」
だがそんな俺の思いはたちまち肩透かしを食った。姉は小さく叫ぶと慌てたように俺から身を引いたのだ。
ふみ姉は何度か匂いを嗅ぐと、遠いものを見るかのような眼差しで俺を見つめた。
「そっか…。そうだよね…。ゆうくんも有妃さんから可愛がってもらっているんだよね…。」
切なそうに語る姉…。一瞬何事かと戸惑った俺だが、すぐに刑部狸の咲さんとのやりとりを思い出す。そうだ…。もう俺には有妃の、愛する妻の匂いがしみ付いているのだ。
魔物の夫となった男の体からは、妻である魔物の匂いが威嚇するように漂うのだそうだ。この男はわたしのものだから絶対に手を出すな!という…。
俺から有妃の匂いを嗅ぎ取ったふみ姉は、もう以前のように抱きしめる事が出来ないことを理解したのだろう。悪い事をしてしまったと言わんばかりに目を伏せた。
「ごめんね…。ほんとうはゆうくんの事ぎゅっとしてあげたいんだけど…今のわたしはそれが出来ない事はわかるよね?」
優しく諭す姉を俺もつらい思いで見つめる。互いに既婚者になった俺と姉だ。いくら姉弟とはいえ、抱きしめ合うような事をするべきでない事は良く分かる。
だが子供の頃いつも癒されてきた姉の抱擁。もうそれを二度と味わう事が出来ないことを思い知り、寂しい気持ちを抑えきれない。
思わず感傷に浸ってしまう俺…。その姿を見て有妃は一つため息を着いた。
「ふふふふふっ…。いやですよお…。そんなこときになさらないでよろしいのに……。」
抑揚のない有妃の声に驚く。思わず見つめると妙に苦しそうで思い詰めた様な表情…。ぎょっとする俺に気が付いた有妃は笑顔を見せたが、それがまた口角を無理やり上げた様な引きつった微笑み…。
ああ、これは間違いなく無理している…。言葉とは裏腹に俺と姉が抱擁しあう事など認めたくないのだろう。有妃は気を遣って心にもない事を言っている。おそらく先ほど感情的になってしまった事が頭を離れないのだろう。
「有妃ちゃん。いや、俺は別に………」
しまった…。有妃を困らせてしまった事に気がついた俺は、すぐに言葉を掛けようとした。だが、それよりも先にふみ姉が慌てて語りかけてくる。
「ごめんなさい有妃さん!わたしが悪かったわ…。大丈夫!佑人はあなたのものだから。心配しないで落ち着いて…。変な事はしないから…ね。」
労わる様に語りかけると、ふみ姉は有妃の手を取り優しく握りしめる。有妃も急に力が抜けたように肩を落とすと姉の手を握り返した。
「お義姉さん…。」
「本当にごめんなさいね…。わたしが何も考えずに馬鹿な事しようとして…。」
俺も有妃の肩をそっと抱いて謝る。
「有妃ちゃん。悪かった…。」
泣きそうな表情で肩を震わす有妃を、俺とふみ姉はただ優しく慰め続けた。
「佑人さん。お義姉さん。あの…ごめんなさい…。」
「いいえ…。それを言うならわたしのほうこそ…。」
有妃と姉は互いに申し訳なさそうに頭を下げあっている。まあ、誤解が産まれないで良かった…。ほっとした俺も声をかける。
「ええと…仲直りもしたところで、ふみ姉の話の続きを聞こうかな…。」
それを聞いた
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