ああ…暇だ。正月で久しぶりの長期休暇だが…本当に暇だ。
暇はあるが金も趣味も無い。当然というか彼女もいない。友人たちと駄弁ったり飲んだりする事が唯一の楽しみのようなもの。その友人達は彼女とお楽しみだ。飲みに誘うには気が引ける。
暇つぶしにテレビやネットを見る。だが家に居続けると、どうにも息が詰まってきてしまう。
どうしよう…。
あ…そうだ。
せっかくの正月だ。初詣にでも行こうか…。思い立った俺は早速支度を始めた………。
魔王の統べる王国と国交が結ばれて数十年…。当初は色々問題もあったらしいが、それは全て俺が産まれる前の話だ。今では社会にとって必要不可欠な隣人として、友好的に共存している。
現に俺が向かっている神社も、「龍」といわれる高位の魔物によって守られている。この地には龍にその身を変じて、妖から村を守った女性の伝説がある。その女性を祭る神社として、以前から知られていたのだ。魔物との共存が進んだ今では、伝説に伝わる龍本人が堂々と姿を見せるようになった。
さて…。ようやく到着した神社。田舎町ゆえ人はそれほど多くは無いが、それでも正月らしい賑わいを見せている。活気ある様子に、本当ならば俺の気持ちも浮き立つのだろう。
にぎやかで活気がある事。それはいい。
そう。それはいいのだ。問題は…
なんでほとんどがカップルばっかりなんだよ?え?おい!?………俺は思わず舌打ちしてしまう。
角や翼をもつ女性。獣のような毛並みを持つ女性。異形の下半身を持つ女性。なかには全身が液体状になっている女性もいる。皆、驚くほど整った容姿を誇っている。
それらの者が全員男と連れだって仲睦まじくしているのだ。人間同士のカップルも多いが、目立つのはこれら美しき魔物娘達…。
独り身の俺にとってこの光景は大変つらい…。
あ〜あ…。こんな事なら来るんじゃなかった…。家に居た時以上に憂鬱になる。でも、よく考えれば初詣客にカップルが多いなんて当たり前の事だ。俺はろくに考えもせずに神社に来てしまった事を後悔した。
妬んでいないで彼女を作れ?その通りだ。人間娘なら色々面倒だろうが、魔物娘に声を掛ければ喜んで恋人になってくれるだろう。
だが…なんというか。どうも俺自身魔物に対してわだかまりがあるのだ。
魔物娘は欲しい男をどんな手段を使ってでも手に入れる…。一緒になった男とは昼夜を問わず、ひたすらセックスして過ごす…。そんな話を聞くとなんとも複雑な気持ちになる。
魔物と交わり続ける男は、飲まず食わずでも生きて行けるそうだ。働かずにだらだら生きて行ける事を、大喜びする男も多いのだろう。だが、それは人間としてどうなのだろう?自堕落な生活は、人間としての誇りや尊厳を捨てる事ではないのか?疑問に思う俺は、必要以上に魔物娘と交流しなかった。
賑わいの中に身を置いていると、ますます気分が塞いできた。もういい。帰ろう。
だが、せっかく初詣に来たのだ。せめて縁起物を頂いていこう…。思いなおした俺は破魔矢とお守りを頂いた。
これで用事は終わった。さあ…帰ろう。そう思った矢先。
「あのぉ。すみません…。」
「はい?」
突然声を掛けられて振り向くと、そこに居たのは巫女装束のサキュバスだった。サキュバス属らしくエロい体と、対比するような清楚な巫女装束。アンバランスだがとても魅力的だ。
彼女は妖艶に微笑みながら言葉を続けた。濡れた様な瞳が赤く光っている。
「ただいま縁起物をお授けした方をご祈念して、神楽を龍神様に奉納していますけどぉ…。良かったらどうですかぁ…?」
巫女らしからぬ欲情的な声に背筋が震えた。彼女は距離を縮めて、ぐいぐい俺に迫ってくる。
なんか、このままだとヤバいかも…。俺は慌てて言葉をさえぎった。
「わかりましたっ!どうもありがとうございますっ!」
「えっ…。待ってくださいよぉ!」
悲しい声を上げるサキュバスの巫女から距離をとって、逃げる様に神楽殿に向かう。
やれやれ…。危ない所だった。正月だけの臨時の巫女なのだろうけれど、巫女が参拝客をチャームする様な事していいのか?まあ、龍とはいえ魔物娘を祭ってある神社だ。その辺は全然オッケーなんだろうか?
でも、巫女さんが舞う神楽は見たい。どうしよう?このまま神社に長居しても、先ほどのような事になりかねないが。
色々思案するうちに神楽殿に到着したが…。幸いにも大勢の人が並んで祈念を受けている。
よし…。こんなに人がいるなら大丈夫だろう。人前堂々と魅了を仕掛けてくるとも思えない。
俺は一応安心して行列に並んだ。
俺は目の前で舞われてい
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